ミステリー

森博嗣

「理系」ミステリーの人。
一時結構はまっていて、文庫になった分はすべて読んでいました。何故か途中から、読むと電車に酔うようになり、最近の本はあまり読んでいません。とりあえず、最近読んだ本だけ。

「スカイ・クロラ」
中央公論社 2002(中公文庫 2004)

新たな基地に配属された「僕」は、いつもと同じように戦闘機に乗り、いつもと同じように空を飛ぶ。「僕」の右手は迷うことなく機銃のスイッチを押し、敵機を墜とす。狙いを定めた後は、「僕」はもう敵の姿を追わない。それは時間の無駄であり、迷いを招きやすい行為だから。そしていつか……。

乾いたような、かすかな靄をかぶったような、少し唐突な一人称の文体で語られる、近未来の寓話です。はっきりと語られるわけではありませんが、その世界には「戦争」を仕事とする会社があり、その社員であるパイロット達は本当に命をかけて日々戦いを繰り広げているらしいのです。

「戦争」をするか「宗教」に走るか。

あまりといえばあまりな二者択一ですが、その世界では、ごく普通のこととしてその選択肢が存在するらしい。世界は病んでいて、人々もまた病んでいる。そして、普通の人々の中にあってはあまりに特異な存在である彼らパイロット。戦うために生きている「子ども」たち。

最初に設定を読んだときには「エンダーのゲーム」を思ったのですが、これは、全然違う物語でした。この世界の戦争には、大義名分はない。彼らの戦いは、極めて職業的な、見方を変えればゲームのような、現実感を欠いた戦いです。空虚で、日常的で、非日常的。けれど、それでもやはり、撃ち落とされれば死が待っている。

私はそれほど共感も感動もできなかったけれど、色々考えさせられる部分があって、奇妙な読後感を残す物語でした。「僕」の抱えている子どもの頃からの疎外感には、ちょっと共感します。でも、私はパイロットにはなれなかったでしょうねー。反射神経も運動神経もないから(笑)。

ところで、この人の小説は私は三人称の方が好きな気がします。うーん。何が合わないのかなー。
2004.11.26

「工学部・水柿助教授の日常」
幻冬舎 2001(幻冬舎文庫 2004)

N大学工学部で助教授を務める水柿小次郎33歳。専門は建築材料(コンクリート)。趣味は模型工作。……どこかで見たような設定の、どこかで読んだような連作集です(笑)。テイストはとっても、「すべてがEになる」等、この作者による一連の日記エッセイに近い。どこまでが虚構でどこからが現実の一部分なんだろうという気持ちにさせられる、不安な(笑)作品です。世の中の「普通」に鋭いメスを入れる、シビアな視線とユーモラスな語り口。ミステリィかって言われると首を傾げますが、日常の謎を扱っていると言えば言えるかなー。とまあ、その程度です(笑)。

話題がどんどんずれていって、妙なところでぐるぐるして、気がつくと元に戻っていたりする、そういう作りのお話。色々なことの蘊蓄が少しずつ入っていて、奇妙な味わいがあります。個人的には、試験関係の話が一番ウケました。なるほどねえ。

お話の最後に、水柿助教授が将来作家になったら書こうと思っている巻頭言、というのが載っていて、そこに「には捧げない」と上げられている作家の中に、私の大好きなハンドラーがいます。実はS&Mシリーズの会話はハンドラーを目指した(?)とかいう話も前に読んだことがあるんですが、ええとー、全然まだまだですね、森先生。っていうか、私、日本人にあの境地は絶対無理だと思います(笑)。
2005.02.02



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