ミステリー

初野晴

まだ若手作家さんなのかな。1冊だけ読みました。今後読むかどうかは微妙……。

「水の時計」
角川文庫 2005 (単行本は角川書店 2002)

暴走グループ「ルート・ゼロ」の幹部として暴走行為を繰り返してきた少年、高村昴。しかし、グループは内部分裂を始め、他の幹部は彼を付け狙うようになる。仲間達にはめられ、逮捕寸前まで追い込まれた彼を救い出したのは、物語に出てくる「執事」にも似た、見知らぬ初老の男だった。その男は彼を、閉鎖された病院の一室へと導く。そこでは、脳死状態で横たわる1人の少女が彼を待っていた……。

表紙買い、というか、なんとなく呼ばれて買った本です。でも、裏表紙の内容紹介だけで、中までは確認しないで買った私は、読み始めてからちょっと凍りました。暴走族……。正直、苦手領域(笑)。でも、それがテーマというわけではないので、後半は結構はまって読みました。でもこれ、裏表紙の紹介とは全然イメージの違う話ですー。公告に偽りあり?

物語は、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」になぞらえて語られます。脳死状態にありながら、月夜にだけは語る力を取り戻して、自らの臓器を人々に提供することを望む少女葉月。その臓器を、誰にも知られることなく最速のルートで運ぶ役割を担い、そしてまた臓器を提供する相手を選ぶことをも任された少年昴。
最初は、瞳のサファイア。次は剣のルビー。それから金箔。
王子と、ツバメ。2人がたどるのは、寓話と同じ結末なのか、それとも……?

葉月の設定自体は、医学的にはどうなんだろう、という感じですが、臓器移植の現実や、移植を待つ人々の現実は、現代日本の問題を映し出して痛いです。そしてまた、ごく普通であることから外れてしまった子ども達の悲惨も。でも、私にとって一番印象的だったのは、「先生」の話でした。彼に心臓を貰って欲しいと懇願した昴の気持ちも、それに対する「先生」の決断も、理解できるだけに痛い。自分は何を選ぶだろう、選ぶだけの何かを持っているだろうかと思ったりします。

健康であること、普通に家族がいるということ。
そうしたことのすべてを、色々、考え直させられる本でした。
2005.10.11



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