ミステリー

坂木司

新世代作家さんの一人、になるのかな。まだまだこれからの人ですねー。

「青空の卵」
創元推理文庫 2006(単行本は東京創元社 2002)

ごくごく普通の家庭で、ごくごく普通に幸せに育った「僕」、坂木司は、だから「普通じゃない」人間にいつも憧れ、惹きつけられる。普通の自分にはそんな友達は絶対できないと思っていたけれど、中学生の時、同級生になった鳥井真一は、群れない動物のような、孤高の雰囲気を持った少年だった。僕は、卑怯な自分を自覚しつつ、いじめられていた彼と友達になる。そして鳥井は、僕を通してだけ世界とつながる、ひきこもりの大人になった。僕はそんな彼を何とか外へ引っぱり出そうとするが、その一方、自力で外へ出られるようになった鳥井に置いて行かれるのではないかという恐怖にとらわれて……。

…………BL?(笑)。
いえ、どうやらそうではないらしいんですが、何て言うか、そうとしか読めませんー。っていうか、普通の友情話でこれだったら、ちょっと引きますー(涙)。

と、そんなことはさておき(笑)、以前から気になっていたこの本、やっと読みました。噂に違わず、面白かったです。鳥井君の作るお料理、とってもおいしそうだし、全国銘菓も楽しい。のっけからトラピストクッキー(←私は昔からこれに弱い)食べてたのには笑いました(笑)。ええと、このシリーズも「日常の謎」系ですね。主人公が見かけた謎を、親友のところに持ち込んで解決してもらい、その過程で彼を外に引っ張り出したり、新たな友人に巡り会ったりすると言う仕掛けの、連作短編集。脇役が結構魅力的で、その辺も楽しい本です。それにしても、最近、そっち方面をやけにいっぱい読んでいるような……。創元がばかすか文庫化しているからでしょうか。いえ、面白ければそれでいいんですけどねー。

さて、主人公の親友、鳥井君は「ひきこもり」です。でも、彼の場合、パラサイトしてるひきこもりじゃなくて、在宅で仕事をしていて、お料理だってお掃除だってちゃんとやるし、おそらくマメにゴミも出しているまっとうな社会人。確かに自分から外には出て行けないけれど、それって本当にいけないことなんだろうかって思ったりもします。外に出ること、人とふれあうことだけが幸せではないのだし、とか、まあ色々と。もっとも、彼は本当に、どうしたらいいかわからないだけっていうところがあるみたいなので、主人公のおせっかいも意味のあることなのかもしれませんね。

誰かの一番になりたい。誰かに必要とされたい。
ずっと一緒にいたい。

そういう感情は、私の中ではいつでも希薄です。
だから憧れる、とも言えるし、ついていけないとも言える。
恋人であれ友人であれ、そこまで想える人がいるのなら、それは幸せなことですね。
2006.06.28

「仔羊の巣」
創元推理文庫 2006(単行本は東京創元社 2003)

ひきこもり探偵3部作の第2部です。

ひきこもりの友人、鳥井と付き合うために、極力休みの取りやすいところを思って就職した職場にも、「僕」には仲の良い同期が2人いた。友人と同僚の区別はどこにあるのだろう。同僚は、どうやって友人に変わるのだろう。
そんなある日、僕は同期の吉成から、もう1人の同期である女性のことで相談を受ける。いつもなら鳥井に相談して探偵役を務めてもらうのだが、心配なことに鳥井はひどく風邪をこじらせて寝込んでおり……。

という感じで、今回も、日常の謎を追うお話です。で、今回は牡蠣ですね(笑)。いやもう、本当においしそうでしたー。意外な特技があるものですね、主人公。単に食べるだけの人かと(笑)。

ミステリーとしては、この巻は不発かなー。というより、これはもう、純粋に人間心理のお話ですよね。それはそれで面白いものですけれど。それにしても、そんなに簡単に泣くなー。共鳴してそっちも泣くなー。いらいらするぞー(爆)。

この巻で一番心動かされたのは、「おばあちゃん」のエピソードでした。
誰もがそんなふうに誰かに優しくできたなら、素敵なんですけどね。
2006.06.29

「動物園の鳥」
創元推理文庫 2006(単行本は東京創元社 2004)

ひきこもり探偵シリーズ最終巻です。

ひきこもりの友人、鳥井と共依存の生活を送ってきた僕は、いつかはこの関係に終止符を打たなければならないと、鳥井を自由にしてやらなければならないとずっと思っていた。けれど、鳥井という杖を失ったなら、自分はどうなるだろうという不安はあまりにも強い。そんなある日、年上の友人である栄三郎さんが、その友人である安次朗さんとともに鳥井の元を訪ねてきた。安次朗さんは動物園でボランティアをしており、最近そこで起こっている野良猫の虐待事件を鳥井に調べて欲しいと言うのだ。鳥井の行動範囲の限界近くに、その動物園はあった。そして、事件を追ううちに、僕と鳥井は、忘れがたい過去と向き合うことになる……。

そんなところで偶然に昔の知り合いに会う確率ってあるのかなあ、とちょっと思ってしまいました(笑)が、それ以外は、今回もなかなか読ませるお話でした。前の2巻のように連作短編形式ではなくて、今回は1冊を通してひとつのお話。ラストを飾るにふさわしい、ぐるぐるしたお話でした。

上野動物園、私も子供の頃から何度も行きました。大人になってからも何度か(笑)。実は、動物園は子供の頃より大人になってから大人だけで行った方がずーっと面白かったなあって思っています。もっとも、私は普通は上野公園に行っても動物園の隣の牡丹園か、別方向の国立博物館に行っちゃうことが多いんですけどね。でも、そういうわけで、私は今回、結構臨場感というか、あの動物園やその周囲の雰囲気を思い出しながらこの本を読みました。ホームレスの人々の住む場所も、ああ、あの辺だなって感じで。鳥井君たちのように中に入っていくことは、私にはできませんけれど……。

そう、私はそんな風には生きられないでしょう。どちらかといえば、私は坂木君の方に近いと自分では思うのですが、1つ決定的な差があって、私の場合は、たとえ鳥井君のような人に出会ったとしても、決して近づきはしなかっただろうなと(苦)。

というわけで、なかなか痛いお話でした。
自分自身で自分を閉じこめる檻。それでも手を伸ばす人と伸ばせない人。
誰も彼もに好かれるなんて無理なんだから、嫌う人には嫌ってもらって構わないと、そう言いきれる人は潔いと思うし、ある意味とてもかっこいいと思うけれど、別の側面から見れば、とても子供なんじゃないかなと今の私は思ってしまう。そんなふうに感情的な人間関係は、いつでも私の手に余ります。悔しいことですけれど。

さて、今回は特別付録として、鳥井君のお料理のレシピが巻末に掲載されています。そ、そのうち頑張ろう、うん(笑)。
2006.10.13



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