ミステリー

近藤史恵

日常の謎系ミステリーや、人の心の奥底にある悪意を描く心理サスペンスなど、現代物の作品を多く発表している作家さんです。私はそんなに沢山は読んでいません。

「天使はモップを持って」
文春文庫 2006(新書版は実業之日本社 2003)

社内でも比較的地味で女性の多い部署、オペレータールームに配属された新入社員の「僕」こと梶本大介は、先輩女性社員達のていのいいおもちゃにされる毎日。そんなある日、早くに出社した僕は、奇妙な女の子に出会った。Tシャツにミニのプリーツスカート。ポニーテールにピアス。どう見ても10代の彼女は、その姿でロビーの絨毯に大きな掃除機をかけていたのだ。実は彼女は社内の有名人、広いビルを1人で全部掃除して回っている、掃除の天才だった……。

ちょっとお人好しで、新入社員らしく一所懸命な大介と、クールで頭の回転が速く、仕事柄、他の人には見えない会社の姿を見ることが出来る天才お掃除少女キリコ。この2人が出会うのは、社内で起こる奇妙な出来事。ちょっとずつ積み重なっていったストレスや、繰り返された不倫、誰も止めないセクハラなどが引き起こす、切ない事件。そして、家族の問題。

この作家さんの本、以前にちょっとだけ読んでいて、いつかそのうちもっと、と思ってはいたのですが、今回この本を手に取ったのはそのせいではなく、ヒロインの仕事のせいです(笑)。深夜のビルの清掃作業員。私は、体力的にも精神的にも、自分には絶対無理だとわかっていても、時々、その仕事に憧れる時があります。何て言うのかな「結果がいつも目に見える」仕事だからでしょうか。手をかければかけるだけ、やればやっただけ、お掃除した後はきれいになるし、やらなければそれも歴然。毎日毎日、ただただ目の前の汚れと、作業効率のことだけ考えて決まった作業を繰り返すのには、単純な労働の喜びがあるような気がしてしまうんです。もちろん、そんな風に甘い仕事じゃないことはわかってはいるんですが、それでも。
ただ、正直、キリコの服装でお掃除は無理だと思うなあ……(笑)。

「大丈夫、世の中はお掃除と一緒だよ。汚れたらきれいにすればいい。また、汚れちゃうかもしれないけど、また、きれいにすればいい」

キリコの論理は明解で素敵です。
でも、私はこの本の中では、3章の原西さんのお話が一番共感度が高くて痛かったかもしれません。

「いっそ、周りのことが何も見えない人になってしまいたい」

私がお掃除の人になりたいのも、同じことなのかもしれません。
2006.06.27



トップへ
戻る
前へ
次へ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送