ミステリー

北村薫

日常の不思議を優しいまなざしで描く、素敵な作家さんです。
色々読んでいるんですが、それはまたそのうちに。

「水に眠る」
北村薫著 文春文庫 1997
(単行書版も文藝春秋から1994)

この短編集は、やっぱり日常的な、でもいつもより少し現実離れした不思議な出来事や設定の出てくる、ファンタジックな作品集です。疲れた時、寂しい時に鳴る電話。受話器を取るとただ静かにピアノ曲が流れるその電話は、まだ見ぬ誰かからのメッセージ……?(「恋愛小説」)とか、そんな感じの物語たち。読みやすくて、楽しいです。ちょっとブラックなのもありますが。

私はこの本の中では「くらげ」が一番印象的で、でも、深く考えるとすごくこわいな、と思っています。ありそうな話だしー。

「街の灯」
文春文庫 2006(単行本は文藝春秋 2003)

昭和7年。時代という馬が駆け過ぎようとする頃。
士族出身の上流家庭に生まれ育った「わたし」は、宮様や華族のお嬢様たちと同じ学校に通う生粋のお嬢様の1人。1人で街を歩いたりはしないし、出かけるときは運転手付きの車が当たり前。そんなある日、父親付きの運転手の退職に伴って、彼女の運転手が交代することになった。新しく雇われた運転手はなんと若い女性。武道をたしなみ、見識も豊富な凛々しい彼女に、「わたし」は読んだばかりの小説のヒロインにちなんで「ベッキーさん」という呼び名をつける。そして……。

新シリーズとのことですが、続きが出ているのかどうかちょっと……。
とりあえず、文庫待ちをしていた作品です。ええ、「お嬢様」ものが好きで(笑)。なんだか、女子校ものライトノベルを読んでいるような楽しさがありました。文章も、ミステリーとしての雰囲気もとてもいいと思うのですが、それとは別に、そういう楽しさがある本です。とっても楽しく読みました。

ヒロインの「わたし」こと花村英子は、知的で頭の回転の速い、でも運動はあまり得意ではない女の子。生まれも育ちもお嬢様で、そこからはみだそうともはみだしたいとも思っていない、きちんとしたいい子です(笑)。だから、私にはすごく読みやすい本でした。精神的に楽、というのかな。それに、感情的に突っ走ってしまう主人公だと、お話としては加速がついて面白くなるかもしれないけれど、こういう謎解き物だと謎そのものの面白さを弱めてしまうような気がするんですよね。その点、英子といいベッキーさんといい、このお話のヒロイン達は合格です。疑問を持ってきちんと対象を見つめること、見える面だけでなく、見えない面のことも考えること、見ようとすること。それは、謎解きのためだけでなく、日常生活の中でも、必要であることなのかもしれません。

昭和7年は、日本がどんどん暗い方へと走っていった時代です。でも、ヒロイン達の周りには、まだどこか静かな空気が流れている。甘えん坊のお嬢様のようでいながら、それでも「人を使う者」としてどうあるべきかを知っている英子と、彼女を大切に見守るベッキーさん。確かに、シリーズ化されるのなら、先がとても楽しみです。
2006.05.16



トップへ
戻る
前へ
次へ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送