ミステリー

加納朋子

日常の不思議をやわらかなトーンで描く作家さんです。殺人の出てこないことも多いですねー。でも、ちゃんと、ミステリー。文庫になると追っかけてます。

「沙羅は和子の名を呼ぶ」
加納朋子著 集英社文庫 2002.9

ちょっとファンタジックな短編集です。表題作は、上司の娘と結婚して順調に会社人生を歩んでいる主人公が、選ばなかったかつての恋人と結婚した世界を垣間見るお話。他にも幽霊の出てくる話や、都市の不思議の話など、ノスタルジックでやさしい物語でいっぱいです。私のお気に入りは「黒いベールの貴婦人」と、「商店街の夜」。ささやかな不思議がそうやって日常のなかにあるのなら、ちょっと幸せな気分でいられるな、と思います。

「コッペリア」
講談社文庫 2006(単行本は講談社 2003)

幼い日に両親を強盗に殺され、やさしい養父母に育てられた「僕」は、心のどこかが壊れた、人とうまく付き合えない人間だった。そして、その僕が恋したのは、近所の人形作家の家の庭にうち捨てられていた人形、この世ならぬ美しさを持った哀しい人形だった。いくら恋しても、相手が人形ではどうにもならない。だがある日僕は、その人形そっくりの生きた女性とすれ違う。彼女は、パトロンを頼って暮らしている、気の強い女優だった……。

日常の謎を扱い、ごく普通の人々を描く連作短編集が多かった加納朋子が、人の心の暗黒面を描き出した長編作品です。タイトルそのままの、人形に恋する青年の物語。そして、人形の作り手と、人形を演じる女性の物語。全体として、ちょっと芝居がかり過ぎている気がするのですが、それも必要な舞台装置、ということなのでしょうか。それともやっぱり、新境地頑張りすぎ?

それぞれの壊れた心が紡ぎ出した、少しずつ歪んだそれぞれの願いは行き違い、悲劇は訪れる。人はいつでも、自分の見たいように世界を見ているものだから、結局のところそれは避け得ないことなのでしょう。その悲劇の大きさが、その時々で違っているだけで。私はごく普通の恵まれた家庭に生まれ育った人間ですが、「人とうまくつきあっていけない」了の気持ちは、実感としてよくわかります。そして、「自分がルールを知らなかっただけ」だと思ったら心が楽になったという気持ちも。

ところで、私は「リカちゃん」を買ってもらえなかった人間です。この本のヒロインのように「お下がりを持っている」ことさえなかった(苦)。母が、ああいう、リアルすぎるというか作りすぎた物を子供に与えることを忌避していたから(ぬいぐるみは一応OKでした。あまり持ってはいなかったけど)なんですが、あれはコンプレックスだったなあ……(笑)。今でも、こうしてリカちゃん人形の話が出てくると、あの頃の悲しかった気持ちがよみがえります。なかなか罪な存在でしたね、リカちゃん。

この物語に出てくるようなリアルなお人形は、私はあまり得意ではありません。っていうか、人形全般ダメかなあ。やれやれ。
2006.10.28

「レインレイン・ボウ」
集英社文庫 2006(単行本は集英社 2003)

高校のソフトボール部で一緒にプレーした仲間の1人、チーズこと知寿子が死んだ。まだ25歳。確かに心臓が悪かったけれど、それでも、死んでしまうほどどは聞いていなかった。心臓が悪いのにソフト部に所属していた知寿子、いつも人の話を楽しそうに嬉しそうに聞いてくれた、周りの人間を明るい気持ちにさせてくれた不思議な雰囲気の彼女が。
通夜の席で、久しぶりに再会した仲間達は、それぞれが大人としての人生を歩き始めていた。高校時代はもう遠い。お互いに会うことさえ、今はほとんどなくなっていた。けれど、知寿子の死をきっかけに、彼女達は自分の日々を見つめ直し、ふとしたことからお互いの道の途中で巡り会う……。

この間「コッペリア」を読んだばかりですが、こちらも文庫になっていて、おすすめもいただいていたので読みましたー。加納朋子の、こちらは「日常の謎」系の連作集。一応、「月曜日の水玉模様」の姉妹編になっています。で、かなり忘れていたので、一緒に「月曜日〜」も読みました(笑)。懐かしかったです。

虹の七色になぞらえて語られる、知寿子と、その親友だった里穂以外の7人の部員達の7つの物語。主婦、編集者、保育士、看護師、etc。職業も性格も様々な若い女性達の、それぞれの立場でのそれぞれの悩みと、小さな謎が、作者特有のやさしいやわらかい視線で語られています。みんな、頑張る女の子ですねー。そう、まだまだ「女の子」。25歳って、そういえばそうだったかもって思いながら読みました。自分の選んだ職業が本当に正しいのか、もっと合う何かがどこかにあるんじゃないかって悩んだり、子供時代のコンプレックスから抜け出せずにイライラしたり、何て言うのかな、どこかで子供を引きずってる時期ですよね、あの頃って。え? 私ですか?(笑)。残念ながら、もうとっくにその時期は過ぎて楽になってます(爆)。

7つのお話の中で、私が一番好きなのは「雨上がりの藍の色」。これ、なんだか雰囲気が「天使はモップを持って」に似てましたねー。何となくですが。あ、ついでに、うちの社員食堂担当者に読ませたいよなって思いました(爆)。
それから、一番私に近い女の子は、うーん、緑かなあ。これはちょっと微妙です(笑)。ただ、他の子は違うよなって思うだけなので。憧れるとしたら、佳寿美かな。私が絶対なり得ない女の子ってことで。

私は高校時代、部活をやっていませんでした。
運動は何より嫌いだったし、文化部は肌に合わなくて入り損ねたんですよねー。だから、放課後は図書室に入り浸って本を借りまくっていました。というわけで今の私があります(笑)。
でも、こうやって部活の先輩後輩のその後の話とかを読んでいると、大切な何かを手に入れ損ねたような気持ちがすることも確か。
高校時代は、一度だけですもんね。
2006.11.02



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