ミステリー

S.J.Rozan
S・J・ローザン

「リディア・チン&ビル・スミス」シリーズ。
繊細でかっこいい文章の、勢いのあるシリーズです。
日本語でずっと読んでいましたが、読みやすいというお話を聞いて、続きを英語で読んでみました。私の英語はファンタジーあがりなので、大変でした(笑)。

「チャイナタウン」 直良和美訳 創元推理文庫 1997
"China Trade" 1994
「ピアノ・ソナタ」 直良和美訳 創元推理文庫 1998
"Concourse" 1995
「新生の街」 直良和美訳 創元推理文庫 2000
"Mandarian Plaid" 1996
「どこよりも冷たいところ」 直良和美訳 創元推理文庫 2002
"No Colder Place" 1997
「苦い祝宴」 直良和美訳 創元推理文庫 2004
"A Bitter Feast" 1998

中国系アメリカ人の「わたし」、リディアは、チャイナタウンに住む私立探偵。必要に応じてコンビを組む相棒のビルは白人の私立探偵。チャイナタウンで問題が起これば、事を表沙汰にすることをのぞまない中国人たちが「わたし」に仕事を依頼してくる……。

1巻ごとに、リディアとビルが交互に語り手を務めています。リディアが語るときはチャイナタウンがらみの話。ビルが語るときは白人社会の話。その落差がいい意味での緊張感を保っていて、シリーズをタイトにしている感じ。最初はちょっとびっくりしました。

"Stone Quarry" 1999
「春を待つ谷間で」 直良和美訳 創元推理文庫 2005

若い頃から折に触れて訪れていた森の中の小屋を久しぶりに訪れたビル。それはしかしいつもの休暇ではなく、内々に仕事の依頼を受けてのことだった。依頼者は農場主の女性。彼女は、数日前に彼女の農場から盗まれたある物を取り戻して欲しいと言う。実は彼女はかつて天才と称された画家であり、「ある物」とは彼女が描いた、彼女にとっては失敗作である数枚の絵だった。
というお話に、ビルが懇意にしている酒場の主人とその弟の問題が絡んで、事態は複雑化していきます。もちろん、殺人も。

というわけで、なかなか面白かったです。意外性はそうでもないけれど、淡々とした語り口がいいですねー。私は、ビルがピアノを弾いている時や音楽のことを考えているときの文章の感じがとても好き。ビルのピアノ、ちょっと聞いてみたいですよね。

"Reflecting the Sky" 2001

ずっと昔からリディア一家が世話になってきたチャイナタウンの実力者ガオ老人は、子供の頃からリディアの良き理解者であり、現在も家族の中でただ1人、ビルとの関係を否定も肯定もしない人だった。これまでに何度か、調査上で力を借りたことはあったのだが、ガオ老人の方から仕事を依頼したいと言われ、リディアは喜びと誇りを感じる。とうとう自分が信頼され、役立ててもらえることができるのだ。仕事は、ガオ老人の旧友の形見である小さな翡翠を香港の家族の元に届け、香港での葬儀に参列すること。行って帰ってくるだけの簡単な仕事だと告げた老人は、しかし、その仕事にビルを伴うように言った。そして、訪れた香港のマンションで、2人は孫の少年が誘拐されたことを知る……。

今回の舞台は香港です。「基地の子供」の1人だったビルは海外経験豊富らしい(今回はタガログ語を喋るという特技が威力を発揮)のですが、リディアは海外旅行、っていうか飛行機に乗ること自体が初体験。反応がいちいち初々しいです。それに、なんと言ってもリディアにとっては家族の故郷に近い土地。その辺りの感傷も、私にはないものだけに興味深く読みました。生まれたときからアメリカに住み、自分をアメリカ人だと思っているリディア。そして、今回の登場人物の1人で、幼い頃の彼女をアメリカで知っていた、けれど彼自身は家族で香港に戻った広東人の青年マーク。2人とも、それぞれの場所で、どうしてもぬぐえない異邦人感覚を抱えたまま生きているのです。日本人としてずっと日本にいて、海外に出るときにはただの旅行者に過ぎない私には、そういう感覚は想像することしかできないものなのですけれど。

少年の失踪から始まる事件は、やがて2組の脅迫者を生み、古美術品の密輸業者やチャイニーズマフィアの暗躍も含め、次第に大きくなっていきます。敵の手に落ちたビルを、果たしてリディアは救い出すことができるでしょうか。ビルとリディアが香港にいたのはわずかに数日。その間にめまぐるしく移る舞台と、異邦人であるリディアの目に映るエネルギッシュな香港の姿。スピード感と色彩にあふれた面白いお話でした。ただ、事件の真相は、やはり、哀感に満ちたものです。色々な意味で、切ない物語でもありました。

英語で読んだ感じは、ビルよりもこちらのリディアの語りの方が読みやすいです。女性だからっていうのもあるかもしれませんが、リディアの方が簡単な単語を使って物を考える気が……。ただ、中国名にはちょっと閉口しますねー。日本語に翻訳された物だったら、まず間違いなく漢字にしてくれてあるはずですが、英語だとピンインだからいまひとつ感じが掴めません。香港、行ったことないし。それ以外は、読みやすくてわかりやすい文章だと思います。香港の、熱帯風の空気の感じも素敵。私も大分、普通の現代物の英語に慣れてきたのかも(笑)。

どこに行ってもお茶を飲む話。中国茶の百花繚乱。そしてジャンクな中華料理もてんこ盛り。どうぞたっぷり味わってください。
2005.12.20

実は洋書バーゲンで買って、次の巻も持ってます。そのうち読みます。

"Winter and Night" 2002
エドガー賞受賞作、とか。頑張ります(笑)。



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