ファンタジー・国内

筒井康隆

この方をどこに入れたらいいのかは大変微妙ですが。まあ、この本に関してはSFよりはこちらかな、と……。

「愛のひだりがわ」
新潮文庫 2006(単行本は新潮社 2002)

小さいときに犬に噛まれたせいで左腕が不自由な小学6年生の愛は、父が姿を消した後、小料理屋で働く母と店に住み込んで暮らしていた。しかし、母が亡くなり、彼女は学校を休んで働かされるようになる。本当は、父を捜しにいきたいのだけれど、母がためていたお金も、店の主人にとられてしまって身動きがとれない。そんなある日、彼女はとある雑誌に働き者の美少女として紹介され、ほんの少しだが謝礼金をもらった。だが、店の主人たちはそのお金さえ奪おうとする。愛は、とうとう、店を、町を出て、父を捜しに行く決意をする。町を出る彼女のひだりがわには、彼女を守るように歩く、大きな犬がいた……。

筒井康隆のジュブナイル、文庫化されたのでやっぱり読んでしまいました(笑)。なんだか、つい読まされてしまう何かがあるんですよね。昔から。

舞台は近未来の日本。最初のうち私は、「え? 戦後混乱期?」と思ったんですが、そうではなくて少し未来の、今より荒廃した日本が舞台でした。日本はまだ日本だし、戦争もしていないけれど、社会全体の破綻が、今よりずっと顕著に現れている時代です。警察は骨抜きになって、雇われた自警団が幅をきかせ、貧富の差はより激しく、人の心はすり減っていくばかり。今の日本から容易に想像できる、悲しい未来です。

ヒロインの愛は、そんな世界で貧しくつつましく育った、心のまっすぐな女の子。左腕は動かないけれど、ちょっとした美少女で、動物と言葉を交わすことが出来ます。親友は、生まれつき空色の髪をした少年、サトル。サトルの助けで彼女は旅に出て、様々な人々に出会い、成長していきます。そこにはとても悲惨な、恐ろしい出来事もあるけれど、素晴らしい出会いもある。誰かと別れても、いつの間にか、また誰かが、左手の利かない彼女を守るように、ひだりがわを歩いてくれる。それはなんて素晴らしいことなのだろう、と愛は繰り返し思います。そして、自分も、彼らのためにできるだけのことをしたいと願うのです。

そういうまっすぐさが、筒井康隆のジュブナイルのヒロインの大きな魅力なのかもしれません。そして、それが崩壊寸前の世界を、悲惨であるはずの現実を別の角度から照らし出す。前に進む勇気を与えてくれる。

日本は、世界は、これからどちらに進むのでしょう。
私達は、未来の「愛」たちを守ることができるでしょうか。
その答えはきっと、今の私達自身にかかっているんですね。
2006.08.16



トップへ
戻る
前へ
次へ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送