ファンタジー・国内

たつみや章

実は私は、BL作家としてのこの人の作品は、昔たくさん読んでました(笑)。ファンタジー作家さんとしては、まだこの1冊だけです。

「ぼくの・稲荷山戦記」
講談社文庫 2006(単行本は講談社 1992)

代々、お稲荷さんを守ってきた小さな家に生まれたマモルは、早くに母を亡くして祖母と2人暮らし。マグロ漁船に乗っている父は、滅多に家に帰ってこない。祖母は昔はお茶屋だった小さなたばこ屋さんをやっていて、マモルも時々手伝っている。ある日、店番をしていたマモルは、今時珍しい、和服を着た青年におつりを渡しそこねて追いかけ、見失う。
長い髪の、浮世離れした不思議な雰囲気の青年。実は彼は、神様の使い、白いおきつね様だった……。

おきつね様、と言って、今の子供達、わかるのでしょうか?
どの世代まで伝わっているのかなあ。それとも、昔からのおうちには、今でもちゃんと伝えられているのでしょうか。

私は、祖母からそういうことを伝えられてきた世代に属します。八百万の神々も、そのお使いである動物たちも、みな、見えないところに存在しているのだと語られて、子供の頃にはそういう神様達を信じていた世代。今の私は、「自分には絶対起こりえないこと」として、あっさり片付けていますけれど。

否定する気持ちが、それらかつての神々を殺すのだと、物語は語ります。
誰かが「そんなものはいない」と否定するたびに、妖精が1人死ぬ。そう語っていたピーター・パンの物語は、意外と真実に近いのだと。
そうして、信じる心、感謝する心を失った人間達は、世界を破壊し、自然の力を奪っていく……。

不思議を信じる心だけがそんなに大切だとは、残念ながら今の私には思えません。この物語の中の大人達が、心のどこかでは最初からわかっているように。けれど、やっぱり、日本人が失ってきたものはとても大きいのだとは思う。それが、まだ取り返しがつくものなのか、もう誰にもどうしようもないものなのか、神様がいるのなら聞いてみたいかもしれません。この物語の中のやさしい神様なら、答えをくれるでしょうか。それでも人は前に進んでいくのだと、語ってくれるでしょうか。

こういう本を読むと、ああ、私はやっぱり日本人なんだな、と思います(笑)。翻訳児童書で育って、その後も翻訳物バリバリな私ですが、西洋の、とにかく最上位にいる神様には、いつでもあまり親しみを覚えない。面白いですね。

この本、単行本で出たのはもうかなり昔なんですが、今回「大人にも読んで欲しい」ということで文庫化されたようです。環境問題その他、すでにちょっと懐かしめのお話になっていますが、それはそれでいいかなと。
懐かしい神様と、遠い夢の物語。
夏休みが終わる前に、お楽しみください。 
2006.08.14



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