ミステリー

Andrea H. Japp
アンドレア・H・ジャップ

アメリカ在住フランス人作家さんなのだそうです。バリバリ理系(笑)。結構残酷描写あり注意。

「殺人者の放物線」
藤田真利子訳 創元推理文庫 2006
Andrea H. Japp "LA PARABOLE DE TUEUR" 1996

一見、全くつながりのなさそうな女性達を狙い、残虐な殺人を繰り返す連続殺人犯「レディ・キラー」。その被害者が7人を数え、捜査が袋小路にはまりこんだ時、FBI捜査官キャグニーは苦々しい思いで1人の女性に連絡を取った。天才数学者グロリア・パーカー=シモンズ。彼女は自ら考案した数学的解析ソフトを使い、事実と事実の間のつながりを見つけ出し、その先に起こることを予測する、FBIの協力者の1人だった……。

アメリカ在住のフランス人科学者の書いた「理系」ミステリー第1巻です。根っからの文系で、理系の人々に根深い憧れを持っている私は、この手の本を見かけるとつい買ってしまいます(笑)。私には、そういう意味でもなかなか面白いお話でした。でも、この本、殺しの手口がかなり残虐で、心理的にもきついお話でしたので、そういう本が苦手な方は手を出さない方が無難だと思われます。コージーではないんですねー。はっきりきっぱり。

さて、この物語、主人公達の誰も彼もが「暗い過去」を持っているような、お互いにぎりぎりの精神状態のところで危うい均衡を保っているような、息苦しいほどの緊張感に満ちた物語です。犯人はもちろん、追う側の人々にもそれぞれの苦悩があり、ある種の狂気がある。正常と異常の境目はどこなのか、彼らを犯罪を犯す側とそれを追う側とに分けたものは何なのか。読んでいて考え込まされることの多い本でした。

ヒロインのグロリアは、自らの過去を消し、知的障害者である姪の存在だけを心の支えに生きている、外見上はとてもクールな女性。感情を殺し、正しい答えにたどりつくためにはどこまでも非情になることができる彼女は、その反面、殺された女性の1人に感情移入して、そのために一旦はその任を解かれた後も1人で分析を続けていきもするのです。その二面性こそが人間なのかもしれませんが、そういうふうにこの物語の中の誰もが、何かを己の内に抱え込み、表と裏を行き来している、そういう印象を受けました。

ずっと痛めつけ続けられることに、人はどこまで耐えられるのでしょう。
かつて愛し合った人からの心ない言葉を、人はどれだけ我慢すればいいのでしょう。
憧れの人のために、人はどこまで尽くそうとしてしまうのでしょう。
答えはそれぞれの人の心の中にだけあって、他の人には見えません。そして悲劇は起こり、また誰かが傷つく。

ですから重要なのは事実、不変のデータであり、情緒的パラメータではありえません。この観点からすれば、犯人の動機を知ることも、わたしたちの動機を知ることさえも重要ではないのです。

自らの解析方法について語るときのグロリアの言葉です。
数学を応用した彼女の解析プログラムには、感情の入る余地はない。それは彼女の生き方そのものをも物語るかのようですが、でもやっぱり、人生はそれだけでは語れないものですよね。ただ、彼女の痛々しいまでの割り切り方や考え方には、共感させられるところも多かったです。そう、ある意味、私と彼女は近い感覚の持ち主なのかもしれません。私はあんなふうに頭が良くないですから、あんな風には生きられませんが。

この本、シリーズの1巻目で、原書ではすでに6巻を数えているとか。元はフランス語だと思うので、絶対に原書では読めません(笑)が、翻訳が出たらまた読んでみたいと思います。
2006.11.22 



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