ファンタジー・海外

Patricia A. McKillip
パトリシア・A・マキリップ

文庫ファンタジー読みの間では、「早川FT1」がこの方の作品であることでまず有名(笑)。最近はあまり翻訳されなくなってしまったのですが、とてもとても文章の美しい、その世界にひきこまれるような作品を書く作家さんです。原書で読むともうめまいがするほど綺麗。「ああ、やっぱり英語でも文章きれいとかってわかるんだなー」としみじみ思ったりします。

「妖女サイベルの呼び声」
佐藤高子訳 早川文庫FT 1979
"The Forgotton Beasts of Eld" 1974
「星を帯びし者」(イルスの竪琴・1)
脇明子訳 早川文庫FT 1979
"The Riddle-Master of Hed" 1976
「海と炎の娘」(イルスの竪琴・2)
脇明子訳 早川文庫FT 1980
"Heir of Sea and Fire" 1977
「風の竪琴弾き」(イルスの竪琴・3)
脇明子訳 早川文庫FT 1981
"Harpist in the Wind" 1979
「ムーンフラッシュ」
佐藤高子訳 早川文庫FT 1987
"Moon-Frash" 1984
「ムーンドリーム」
佐藤高子訳 早川文庫FT 1988
"The Moon and the Face" 1985

現在は入手困難本が多い模様。最後の2冊は、ファンタジーというよりSFかもしれません。原書でも入手困難本があったりするのですが、手にはいるところからぼちぼち読んでいます。一語一語を味わいつつゆっくり読むのに向いている本達ですね。

"The Changeling Sea" 1988

戻らぬ父を待って海を見つめ続ける母と、海辺の町で暮らす少女ペリは、父や母を奪った海を憎み、嫌っていた。ある日、海辺の家に住む魔女と知り合った彼女は、海に呪いをかけようとするが、その呪いは……。

ジュブナイル向けの作品、というふれこみなのですが、意外と文章が難しいです。何故かしら。

これは、海の魔法の物語。そして、せつない初恋のお話です。
読んでいる間中、そして読み終えた後もしばらくは、頭の中に潮騒が響いているような、そういう作品。

ところで、主人公の名前にもなっている、Periwinkle。青い花の名前だって書いてあったので、ずーっと真っ青な花を想像して読んでいたんです。でも、読み終わってから辞書をひいたら「つるにちにち草」。あ、青じゃないじゃないのー。どこが青なのー? 花にはうるさい私でした(笑)。


"Winter Rose"

ごめんなさい。貸出中で手元に本がないので、またそのうちに。
こちらは、タム・リン伝説を下敷きにした森の魔法の物語です。


"The Book of Atrix Wolfe" 1995

国を離れ、魔法学校に学んでいた王子タリスが見つけた1冊の本、それは、かつて存在した偉大な魔法使いアトリックス・ウルフの残した魔法の書物、誰も読むことのかなわない本だった。知らず知らずのうちにその本の影響下にあった彼が、学業半ばにして国に呼び戻されることになったとき、物語は動き始める。
不思議な力を持つ森の女王。彼女の失われた宝。そして、城の洗い場で不思議な夢を見続ける謎の少女……。

こちらも、森の魔法の物語です。季節は晩秋。木々の葉が深く色づき、やがて散っていく、その先の長く冷たい冬を思わせる季節。しんしんと美しく、印象的です。

ところで、お城のごちそうが最高(笑)。それだけでも、読む価値ありますよー(爆)。


"Ombria in Shadow" 2002
「影のオンブリア」 井辻朱美訳 早川文庫 2005

Ombriaの国を治める王子Royceは、長い病の床についた後に亡くなった。彼の跡を継ぐ息子Kyelはまだたった5歳の少年。そして、王子が亡くなる前からすでに、国政の実権を握るのはBrack Pearlと呼ばれ、彼らの大伯母を名乗る謎の女性であった。魔法を使い、護衛兵達を従え、恐怖によって宮廷を、Ombria全体を支配するBrack Pearl。彼女によって、Royceの愛妾だったLydeaは闇に包まれた街に放り出され、幼いKyelは何らかの呪文か薬によって無気力な人形と化す。彼が唯1人信頼する従兄弟のDuconは、Kyelの身の安全と引き替えに、Brack Pearlに従うことを選ぶが……。

今年PBになったマキリップ作品のひとつ。2003年の世界幻想文学大賞を受賞した作品です。相変わらずの美しさ。でも、今回は、意外と手強かったです(笑)。私の脳みそがうまく動いてないだけかも。

このお話は、国、というよりは一つの都市の物語。Brack Pearlの暴政により、闇に包まれ、恐怖に支配されたOmbriaには、もともとその裏に影の都市があり、影の歴史があるとされています。王宮にはいくつもの影の通廊があり、外の街には地下の世界が広がります。そこは、過去の幽霊達がさまよう場所。幻想と現実が入り交じる悪夢の世界です。その幻想的な美しさは、マキリップならではのもの。静かで、恐ろしくて、言葉のひとつひとつが印象的です。

マキリップの描く登場人物達は、私にとっては、感情移入するというよりは、一種透明な殻の向こうにあるものを見ているという感じの存在で、その意味で、読むのは精神的には楽です。逆に、感情面からのめりこむことにはならないので、読むことに慣れるまでは大変(笑)。それでもやっぱり、影響力の強い文章で、読んでいない時も頭の中に残っているっていう感じでした。

今回は、登場人物よりも、物語で読ませる感じでした。というか、それぞれ個性的で魅力的な人々なんですが、パートに分かれると印象が散漫になるのかも。それに、主人公はOmbriaそれ自体なのかもしれません。生きて、呼吸して、変化する、自らの影をもつ都市。それがとても印象的でした。
2004.10.30

追記。その後、翻訳されました。
マキリップ、日本語で読んでもやっぱりきれいです。訳も良かったですし、英語で読んでいない方にもおすすめ。私自身は、英語で読んだときの方が「魔法」な感じがしましたが、それは単に、英語で読んでいるときには、よく読めていない部分を感性で補っているからなのかもしれません。日本語で読むと、いろんなことがクリアなので、良し悪しです(笑)。
2005.04.05

"In the Forests of Serre" 2003

深い森の国Serreのただ1人の世継ぎの王子Ronanは、戦場から城へと戻る途中、Serreの森の魔女Brumeの白いめんどりを殺してしまい、魔女に呪いをかけられてしまう。
一方、山を越えた隣国Daciaの王宮で祐筆を務める若者Euanは、魔法使いUncielの依頼により、Uncielの家で彼の書いた様々な過去の物語を清書する仕事につくことになった。王の相談役でもある随一の魔法使いUncielは、何かとの戦いにより力を失い、心身共にひどく弱っていた。ある日、Uncielの元を訪れたのは王家の末の姫。彼女は、Serreの王子との政略結婚を強制されていた……。

森の中の神出鬼没の骨の家に住む魔女。その姿と声の美しさで見た者を魅了する火の鳥。高圧的で冷酷な隻眼の王。魔力をほとんど失い、毎日を庭で植物の世話をして送る魔法使い。失われた心。

様々なモチーフが万華鏡のようにくるくると回って次々に美しい模様を織りなす、マキリップのお伽噺系ファンタジーです。緻密に複雑に織り上げられた不思議のお話。相変わらず美しくて、わけがわからなくても幻惑される、そういう本でした。夢中になって読んでしまうような本を評価する言葉に、Spellbinding という言葉がありますが、私はマキリップの本を読んでいるといつも、この言葉を思い出します。この言葉自体は、目を離せないジェットコースターストーリーとかを評価しての言葉として多く使われてる気がするんですが、「呪文にかけられたように魅了されてしまう」という意味で、マキリップの文章は本当に力がありますね。読んでいるだけで、世界がふっと静かになって、空気が変わり、香りが変わり、別の景色が現れる、そんな感じがします。

さて、今回はまた「森」と「魔法」のお話です。マキリップお得意の世界ですね。世界のはじめからそこにあったような、深い深い緑の森。魅了と呪縛。愛と野心。実のところ、登場人物達にはあまりひかれなかったんですが、物語自体は面白かったです。繰り返されるモチーフも、謎かけも。

というわけで、ええと、洋書読み初心者の方には絶対おすすめいたしません。すっきりくっきり楽しいファンタジーがお好きな方にもいまひとつだと思います(苦)。言葉や文章自体が難しいわけではありませんが、それだけでは楽しみきれないものがある。
でも、とっても美しいし、読み慣れれば奥が深くて味わい深い物語です。心を失った王子や魔法使いが最後に見いだすのはなんでしょう? 魔法使いの記憶の本の最後に綴られるのはどんな言葉なのでしょう?
時間と心にゆとりのあるときに、ごゆっくりお楽しみください。
2006.06.17



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