ファンタジー基本図書?
「車のいろは空のいろ」
あまんきみこ作 北田卓史絵
ポプラ社 1977(現在はポプラ社文庫)
「これは、レモンのにおいですか?」
「いいえ、夏みかんですよ。」
「ほう、夏みかんてのは、こんなににおうものですか?」
「もぎたてなのです。きのう、いなかのおふくろが”速達”でおくってくれました。においまでわたしにとどけたかったのでしょう。」
(「白いぼうし」)
覚えてますか? 小学校の国語の教科書に載っていた、タクシー運転手松井さんのお話です。この後、帽子の下のもんしろちょうのお話になるのですが、私には、この会話が今も一番印象に残っています。「においまでわたしにとどけたかったのでしょう」という文章の意味が、テストに出たことまで覚えています(笑)。今だったら、速達じゃなくて、宅配便になるのでしょうか? あの頃、速達ってとっても特別なものに思えました。
そう、これは、まだ都会でももう少し時間がゆっくり流れていた頃の物語です。初めてこの街に出てきたとき、そのあまりの大きさにびっくりしたという松井さんがタクシーを走らせる街には、畑もあるし、人のあまり通らないような田舎道もあります。綺麗な海が見渡せる海沿いの道もあるし、でも、昔とは面影の変わってしまった、ビルの建ち並ぶ通りもある。ちょっと昔の、懐かしい日本の風景が、そのまま封じ込められたような街です。
おひとよしでやさしい松井さんのタクシーに乗るのは、人の子に化けた狐の兄弟や道に迷った蝶、今はもうないはずの思い出の街を訪ねるおばあさん、そして、熊の紳士。普通のお客さんに混じって姿を現す不思議なお客さん達を、松井さんはちょっとびっくりしつつも、きちんとお客さまとして車を走らせます。住み慣れた森や山を離れて人の姿をとって暮らす動物たちの物語は、ちょっと寂しくて、それでもやさしい。とても日本的な、温かいお話です。
空色のタクシーの走る、懐かしい街。
いつか行ってみたいですね。
2005.01.22 |
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