ミステリー

David Handler
デイヴィッド・ハンドラー

ジャンルの区別なく、大好きな作家の1人です。
何故だかあまり有名ではないのですが、会話がとことんおしゃれで素敵。
最初に書かれていたホーギー・シリーズは、日本人にはちょっと真似のできないような、ユーモアあふれるおしゃれな会話が魅力の、業界裏話的なミステリでした。途中からちょっとだれてきた感じがしないでもないんですが、初期の作品はもう本当に素敵。こういう軽妙な会話シーンが書けるようになるのなら、何を支払っても惜しくないよな、という気持ちにさせられたものです。なんだかねー、違うんですよねー。

「真夜中のミュージシャン」 河野万里子訳 講談社文庫 1990
"The Man Who Lived by Night" 1989
「フィッツジェラルドをめざした男」 河野万里子訳 講談社文庫 1992
"The Man Who Would Be F. Scott Fitzgerald" 1991
「笑いながら死んだ男」 北沢あかね訳 講談社文庫 1992
"The Man Who Died Laughing" 1988
「猫と針金」 北沢あかね訳 講談社文庫 1993
"The Woman Who Fell From Grace" 1991
「女優志願」 北沢あかね訳 講談社文庫 1995
"The Boy Who Never Grew Up" 1992
「自分を消した男」 北沢あかね訳 講談社文庫 1999
"The Man Who Cancelled Himself" 1995
「傷心」 北沢あかね訳 講談社文庫 2001
"The Girl Who Ran off with Daddy" 1996

かつて自伝的小説で一世を風靡し、しかしその後自分の小説が書けなくなって有名人の自伝のゴーストライターをつとめる作家のホーギーことスチュワート・ホーグ。彼が自伝の取材のために相手の過去や現在を掘り起こし始めると、そこには必ず事件が……。

ホーギーのいくところ、どこへでもお供する愛犬のルル。別れたかつての妻で、人気女優のメリリー。ホーギーにゴーストを依頼する、一癖も二癖もある有名人達と、彼らをとりまくきらびやかな世界。人物描写が素晴らしく、奥行きの深い、素敵なミステリーです。ホーギーが「何年かに一度は読むことにしている」本達の紹介もいい感じ。騙されたと思って(笑)一度おためしください。

そして、この1冊。ずーっと翻訳されずにいました。
今のところ、これが最終巻です。

"The Man Who Loved Women to Death" 1997
 「殺人小説家」 北沢あかね訳 講談社文庫 2005

実は出ていることも知らなかった(苦)んですが、色々検索しているうちに知りまして、しかも絶版だったため、とうとうアマゾン(それもcom の方)のユーズドに手を出し、大喜びで読みました。
そうしたらその後、なんと翻訳が(笑)。

かつての有名小説家であり、凄腕のゴーストライターであるホーギーの元に、ある日、差出人の名前のないマニラ封筒が届く。中に入っていたのは、丁寧な手紙と、タイプライターで打たれた小説の第1章。一読したホーギーは、筆者の才能に驚きを覚えるが、その中に描かれた殺人が現実のものとなり、続く第2章もまた……。

読み終えた後で思ったのは、私は待っているのだろうな、ということでした。この世界から、この現実から私を解放してくれる(=殺してくれる)人を。何気なく現れて、突然手を下してくれる誰かを。破滅願望(笑)。
でも、多分、誰もが、大なり小なりそういう願いを持っているんじゃないかなと思います。アンサーマン。人の願いの、祈りの、答え。残念ながら、私は答えを与えられる者として選ばれるような魅力の持ち主ではないですけれど。というか、選ばれるような人は、祈る必要はないのかもしれない。そんなことを、朝ぼーっと歩きながら、しばらく考えていました。

英語と日本語とどちらで読む方がいいのか、ということについては、うーん、微妙ですね。ただ、割と最近この訳者さんの訳した他の本を読んだときも気になったのですが、「マジ」っていう言葉を多用するんですよねー。それが私には我慢できない(笑)。「本気」って書いて「マジ」ってルビを振るならまだ許せます。でも、あっちこっちにカタカナで「マジ」と書かれるとやっぱりだめ。ちなみに、原文では serious だったり、really だったり色々。ええ、言いたいことはもちろんわかるんですが(苦)。うーん。やっぱり英語で読んでいるべき?

訳者あとがきによると、ホーギー・シリーズ、中断はしているけれど、まだ続きが書かれるのではないかと言うことです。でも、個人的にはこれで終わりでいいんじゃないかなあ、と。新シリーズの方はコンスタントに書かれているし、そのうち翻訳もされるらしいです。期待。でも、「マジ」はやめてー(涙)。
シリーズの前の巻がすべて絶版らしくて、ホーギー、現時点では読んでくださいとおすすめすることができません。でも、私はずっと大好きなので、騙されたと思って、機会があったらお試しください。あ、騙された?
2005.07.07

日本語訳で何度も読んでしまっているこのシリーズですが、そのうち地道に(ユーズドかなあ?)揃えて全部英語で読もうかな、と思ってます。いつになるかはわかりません(笑)。


それから、こちらはその後書き継がれている新しいシリーズ。翻訳が始まりました。原書では、現在第5巻まで出ています。

"The Cold Blue Blood" 2001
「ブルー・ブラッド」
北沢あかね訳 講談社文庫 2006

若くして妻を亡くし、唯一の外界との接点を喪って途方に暮れていた映画評論家のミッチは、担当編集者の依頼で取材に訪れたコネティカット州ドーセットで新たな運命と出会った。アメリカのブルー・ブラッド達の住む私有の島、ビッグシスター島。不思議な偶然から、所有者の一人である上品な女性ドリーの借家人となることになった彼は、これまでの人生で一度も経験したことのなかった牧歌的な生活を始めることになる。しかしそれは、庭の菜園をよみがえらせようと考えた彼が、その中から死体を掘り出すまでのことだった……。

第1巻、翻訳されました。思ったよりずいぶん早かったですねー。書店で見かけたときにはびっくりして思わず凍り付いてしまいました(笑)。何故凍らなければならないんでしょう私? うーん。日本語版のタイトルかなあ? 表紙の雰囲気かなあ? これはこれできれいだと思うんですが、私はPB版の表紙が結構好きだったんですよねー。タイトルは、日本語版のそれも、わかることはわかるんです。でも、そうか"cold"が入ると入らないとではこんなにイメージ違うのねー、という気がしました。そういうのって、なんだか面白いですね。

さて、改めて日本語で読んでみると、なるほどそういうことだったのかと……はあまり思いませんでした(笑)。でもやっぱり、この人の文章ははまります。電車に乗っている間に読んでいると、そのイメージにとらえられたまま電車から降りる感じ。特に、ミッチ視点の部分(このシリーズはミッチと、彼の相棒になるデズの2人の視点で交互に描かれます)の自然描写や街の描写にはとても惹かれますねー。それは、英語で読んでも同じことでしたが。会話については、うーん。微妙? 前の「殺人小説家」の時も思ったのですが、「マジ」「ホンキ」「インチキ」……(遠い目)。ハンドラーの流麗な文章とおしゃれな会話をカタカナの片言で訳すのは本当に勘弁して欲しいです。あと、ミッチの言葉遣い。読む人が読めば英語で読んでもああなのかなあ。もうちょっと丁寧な、優しい感じの語尾で話す人っていう印象があるんですが。あ、気のせい?(笑)。

でも何はともあれ、シリーズの翻訳が始まってくれて嬉しいです。次の巻も日本語でも読むかどうかはちょっと謎ですが、もうちょっと日本でも知られていいんじゃないかなあと思っていますし、評価してもらえたら嬉しいなあと。ホーギー・シリーズは絶版になっちゃってますが、こちらはここから始まります。お楽しみはこれから。機会がありましたら手に取ってみてくださいね。
2006.04.21

"The Hot Pink Farmhouse" 2002

1巻が翻訳されてしまったおかげで、この巻の紹介を書いておかないとまずいことに……。ううううう、そのうち善処しますー。ちなみに、タイトルのホットピンク〜ですが、これはそのまんま、ホットピンクに塗装された農場のおうちのことです(笑)。ミッチのゴミ漁り仲間の彫刻家さんのお話。そういえば、あの彫刻はまだミッチの家にあるのかなあ。

"The Bright Silver Star" 2003

夏を迎えたドーセットには、観光客があふれていた。古風な町並みを残す美しい町は、もともと人気の観光地。しかし、この夏、ドーセットは、住民以外の人々を呼び寄せるさらなる要因を持っていた。双方ともに若手の人気映画スターである、Tito と Esme夫妻が町に滞在していたのだ。Esmeは、Mitchの散歩仲間であり、ドーセットの有閑階級の重鎮でもあるDodgeの娘だった。映画評論家として、彼らに個人的に近づくことを避けていたMitchだったが、彼がTitoの最新出演作の批評を発表したことで、状況は変化してしまう。「怒れる若者」の具現したような当代最高のスターであるTito。彼の怒りはまっすぐにMitchに向かう。だが、その後……。

絵のように美しい町を舞台に、そこ住む人々のそれぞれの事件を深い哀感をもって描くこのシリーズ、今回もまた、どろどろの愛憎劇が展開されました。なかなか強烈です。でも、やっぱり好きですねー。流麗な文章と気の利いた会話。そして、語られる人生。ミステリーですけれど、物語の中にきちんと人生がある、そういうシリーズです。なかなか同好の士に巡り会えませんが、おすすめ。

今回は、MitchがDesに厳しいダイエット指令を下されていて、おいしいもの関係がいまひとつかなー、と思っていましたが、結局食べていたような(笑)。ボストンに聞き込みに向かうDesに、「帰りにイースト・コースト・グリルでノースカロライナ・シュレッドポーク(バーベキューの一種らしいです)を買ってきてくれないかな」などと頼んでるし、彼女もしっかり買って帰ってくるし(笑)。

Mitchの猫たちもすっかり落ち着いてきて、相変わらず可愛いです。夏の間は一緒には寝ない(笑)。いいなあ、猫。
2004.10.23

"The Burnt Orange Sunrise" 2004

ドーセットで過ごす初めての冬、雪と寒さに封じ込められ、人通りの絶える厳しく美しい季節を満喫していたMitchは、ある朝、燃えるようなオレンジ色の日の出に出会う。一瞬の間に消えてしまった、幻のような光景。それが、不吉の前兆なのか、それとも良いことの前兆なのかMitchは知らなかった。そしてその日、Mitchは知り合いのホテル経営者Lesに、彼の義母にあたる伝説の映画監督Adaとの夕食に招かれる。会場は、Lesの経営する古城ホテル、アストリッド城。幽霊の伝説があり、夏には観光客であふれる趣ある建物は、町中を離れた小高い山の上にあり、周囲を森に囲まれていた。Adaも、他の客達も彼らを歓迎してくれたが、食事を楽しむうちに、豪雪がドーセットに襲いかかった。あまりの雪の重みに木々は倒れ、電力も落ち、彼らはアストリッド城に閉じこめられてしまう。そして……。

……殺人が起こるわけですね(笑)。雪に閉ざされた古城、お互いに毒舌をたたきつけ合う、一癖も二癖もある有名人一家。妻と城を訪れながら、愛人も呼び寄せてしまった夫。人間関係は錯綜していて、泥沼。まるで、日本の「新本格」のよう(笑)。でも、やっぱり違うよな、と思うのは、会話の軽妙さと、全体に漂うユーモアですねー。今回は本当にすさまじい展開なんですが、それでも、どこかに救いと余裕がある。それをよしとするかどうかは、趣味の問題なのですが、私はやっぱり大好きです。

ただ、今回は、ミステリーとして読むには今ひとつかもしれません。わざと、最初からネタを割っているタイプのお話なんですよね。ある種、「刑事コロンボ」的展開というか何というか。だから、推理して読むことを期待されるむきにはおすすめできない気がします。人間ドラマとして読むなら、色々とすごいんですけれど。

「彼女が夢を見なかったら、こんなことは起こらなかった」

ただ幸せに生きいていくというそのことの、なんと難しいことでしょう。
悲しくほろ苦い人生の現実を垣間見るような、そういうお話でした。
2005.11.16

PB待ち中ですが、次巻はこれ。
"The Sweet Golden Parachute" 2006



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