ミステリー

Dorothy Gilman (Butters)
ドロシー・ギルマン

「おばちゃまスパイ」シリーズで有名な、ドロシー・ギルマン。私は子どもの頃から、ミステリーとしてよりは人情物(?)として楽しく読んできました。もともとは、児童書も書いていた方で、最近翻訳が出ているのはジュブナイル系の本が多いみたいですね。。
「おばちゃま」シリーズもそのうちご紹介していきたいです。

「伯爵夫人は万華鏡」
柳沢由実子訳 集英社文庫 2002
"Kaleidoscope" 2002

アメリカ東海岸の町、トラフトンの八番街で「読み、承ります」という小さな看板を下げてひっそりと暮らすマダム・カリツカ。彼女はその数奇な生涯のうちに伯爵夫人だったことも難民だったこともある、今は一人で凛として生きている女性。彼女には、人の未来を、過去を、運命を「読む」という不思議な力があった。彼女の元には、悩みや怒りを抱えた人々がふらりと訪れ、それぞれの物語を読んでもらう。警察も、元大泥棒も、時には情報機関の調査官も訪れる彼女の小さな部屋には、いつも居心地のいい空気が流れていた。

ほんの少しの不思議、ほんの少しの奇蹟。日常生活の中のささやかな事件や、恐ろしい出来事。それらがマダム・カリツカの優しい視線で綴られる、さわやかな物語です。実はこの本は2巻めで(1巻目は「伯爵夫人は超能力」 "The Clairvoyant Countess" 1979)、でも、忘れられた頃に書かれた独立したお話。これだけで読んでも大丈夫なはずです。

私は昔から「ちゃんとした大人になりたい」と思っていて、そういう人の出てくる本に弱いんですが、この本もそうした本の1冊です。マダム・カリツカは今は貧乏で最低クラス(よりは上かな)の生活をしていますが、それでもいつも優雅で、誇りを失わず、周囲の人々には穏やかに優しくふるまい、行動すべてにきちんと筋を通しています。ちゃんとした大人の女性。素敵ですね。

「マーシーの夏」
柳沢由美子訳 集英社文庫 2004
"Ragamuffin Alley" 1951

フィラデルフィアの裏通りで、下宿屋を営む母と暮らすマーシーは、高校を卒業したばかり。大学に進学するお金の余裕はないし、特別な才能も技術もないので、秋になったらタイピストにでもなるしかないとわかっている。下宿人の1人、イラストレーターのキムに片思い中だけれど、彼はそういう意味では、全然彼女に興味がないらしい。自由に過ごせる最後の夏に何をしたいのかさえ決めかねていた彼女だったが、亡くなった下宿人のオメリアヌクさんが遺した人形劇用の人形を見ているうちに、人形劇をやってみようと思い立つ。彼女の熱意と人形自体のすばらしさはやがて、他の下宿人達も巻き込んで……。

ギルマンが、おばちゃまシリーズ以前に書いたというジュブナイル小説です。将来が見えない、やりたいことがわからないという少女の心の揺れや、彼女を囲む貧乏な下宿人達それぞれの苦悩と喜びが描かれる、やさしい雰囲気の作品。ギルマンの視線は相変わらずやわらかくて、爽やかです。一応ヒロインはマーシーなんですが、新しい下宿人で、美人であることを武器に生きてきたフォリーの物語の方が印象的かもしれません。誰もがそれぞれに成長するお話。とても素敵です。

50年も前に書かれたものなので、ちょっと懐かしい、というか、古風な雰囲気。でもやっぱり、大切なことは何も変わらないのかもしれないな、と思います。
2005.02.27

「カーニバルの少女」
柳沢由美子訳 集英社文庫 2005
 "Carnival Gypsy" 1950

母と伯父の3人で、農場で周囲と隔絶された生活を送ってきた少女カプリ。けれど、伯父が亡くなった時、彼女と母に遺されたのは、とても続けてはいけない農場と、赤字が続いているというカーニバルの経営権だった。母と伯父は、実はかつて、カーニバルの花形スターとして絶大な人気を誇っていたのだ。農場とカーニバル、どちらを選ぶかと弁護士に問われた母娘は、可能性に賭けてカーニバルを選ぶ。カプリにとっては思いも寄らなかった新しい生活が始まった。しかし、何者かがカーニバルを狙い、カーニバルを成功させようと奔走する母は、日に日にカプリと心が離れていってしまう。それでも、カーニバルを愛するカプリは、なんとか頑張っていこうとするのだが……。

この本、本当に初期の作品なのだそうです。1950年。確かにかなり昔ですよね。でも、中身はやっぱり、書かれた年代に関係なく、頑張る女の子の成長物語。サーカスやカーニバルって、ギルマンにはとても思い入れのある世界なのでしょうか。とどまることなく旅を続け、常に新しい街を目指す彼らの話、何冊も書いてますよね。この本もそう。そうやってしか生きていけない人々を、限りない愛情を持って描いています。そして、その世界になじめなかった人々のことも。

カプリは農場育ちで、農場のこともとても愛していましたが、カーニバルの一員としての生活に不思議なほどはやくなじんで、ずーっとそうしてきたかのように楽しく過ごします。けれど、母親はそれを嫌い、彼女にもできるだけカーニバルの人々と付き合わないように申し渡すのです。子供の希望と親の希望が対立するのはいつの時代でも同じ。母親がよかれと思ってやったことがどんなにカプリを傷つけてきたかということも、それでもカプリがどんなに母親を思っているかということも、ギルマンは丁寧にやさしく描き出していきます。

カーニバルを失敗させ、カプリ親娘を追い出そうとする悪者の手を、どうやってかわすのか。大きな街への出入りを禁止されたカーニバルを、もっと認められる、みんなの来てくれるカーニバルに変えていくことができるのか。アクロバット芸人志望の雑役係マットとともに、カプリはけなげに頑張り続けます。
読むとなんとなく元気になれる、やさしい人々の物語。どうぞお楽しみください。
2005.11.26

「ひと夏の旅」
柳沢由美子訳 集英社文庫 2006
"Enchanted Caravan" 1949

赤ん坊の頃からずっと孤児院に預けられて育ったジェニー・マーガレットはその夏、十数年ぶりに会った父親とともにキャラバンの旅に出た。自由を愛する活発な彼女は、孤児院の生活にうんざりしていたのだ。父は、おんぼろバスに刃物研ぎの機械を積んで、旅の生活をしていた。だが、ある日、居眠り運転の車がバスに激突。バスはもちろん、刃物研ぎの機械も壊れてしまう。事故を起こした運転手は、芸能エージェントを名乗る若い女性だった……。
というわけで、お父さんは大昔の職歴を生かしてピエロに(笑)。

舞台は1940年代のアメリカ。作中で、登場人物が、「人情が薄くなった」ということを嘆くシーンがあるんですが、だとしたら、今の時代なんか一体何? ですよね。でも、いつの時代も嘆きは同じ、ということなのでしょうか。
主人公達は、壊れた車をアイスクリーム販売車に改修して旅を続けます。お祭りのある町ではアイスクリームは売り切れの大人気。そうか、その時代にはもうアイスクリームの移動販売車も可能だったんだなあ、と思ったりも。

それぞれが、それぞれの夢に向かって歩き出すための、力を与えてくれるひと夏の旅。
子供の頃のきらきらした夏の雰囲気がいっぱいの楽しい物語でした。
2006.08.18

「自由の鐘」
柳沢由実子訳 集英社文庫 2007
"The Bells of freedom" 1963

イギリスに生まれた少年ジェッドは、母を亡くし、おばさんの元に送られる途中で拐かされてアメリカ植民地に売り飛ばされてしまった。非力と栄養不足でまともに働けない彼に、買い主の鍛冶屋はきつく当たるばかり。しかしある日、鍛冶屋を訪れた1人の男が、彼を鍛冶屋から買い上げ、自分のところで働くように取りはからってくれた。その男、ボックス親方の仕事は印刷屋。鍛冶屋の仕事に較べたら、夢のような毎日が始まった。だが、親方は何か秘密の仕事をしているらしい。そして折しもボストンの街は、宗主国イギリスに逆らって戦争を始めようとしていた……。

ドロシー・ギルマンの子供向けのお話が、また1冊出てました。今回の主人公は12歳の男の子。舞台は植民地時代のアメリカです。これまでとはちょっと毛色の違う、でも、いつもながらのギルマンの作品。ジェッドがあまりにも目の前の物しか見えていないような気がするところがちょっと気になったのですが、12歳だったらそんなものかな。全体としては楽しく読みました。

イギリスでさらわれて植民地に売り飛ばされる話って、あちこちで見かけますが、やっぱりそういうものだったのでしょうね。今だったら、拉致問題……。ううむ。

何を信じて、何を守るか。最後の最後の部分で選ぶのは何なのか。
動乱の時代には、子供であってもそういう運命と向き合う瞬間があって、それが人を成長させていたのかもしれません。
今の日本はそういった場所ではないけれど、それでも、大切な場面で、ちゃんと正しいことを選べる人になりたいですね。
2007.03.09



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