ミステリー

Lindsey Davis
リンゼイ・デイヴィス

ユーモアあふれる筆致で、古代ローマの日常生活から国家的陰謀まで自在に描き出す実力派。日本ではいまひとつ知られていないような気がするのですが、イギリスでは人気が高いとか。まだまだ現役の作家さんなので、今後も楽しませてもらえそうです。

「密偵ファルコ」シリーズ

「白銀の誓い」 伊藤和子訳 光文社文庫 1998
"The Silver Pigs" 1989
「青銅の翳り」 酒井邦秀訳 光文社文庫 1999
"Shadows in Bronze" 1990
「錆色の女神」 矢沢聖子訳 光文社文庫 1999
"Venus in Copper" 1991
「鋼鉄の軍神」 田代泰子訳 光文社文庫 2000
"The Iron Hand of Mars" 1992
「海神の黄金」 矢沢聖子訳 光文社文庫 2001
"Poseidon's Gold" 1993
「砂漠の守護神」 田代泰子訳 光文社文庫 2003
"Last Act in Palmyra" 1994
「新たな旅立ち」 矢沢聖子訳 光文社文庫 2003
"Time to Depart" 1995
「オリーブの真実」 田代泰子訳 光文社文庫 2004
"A Dying Light in Corduba" 1996

銀の産地ブリタニアで、何者かが銀のインゴットを横領している。
元老院議員から依頼を受けた「おれ」は、鉱山奴隷に紛れ込んで、その実態を暴こうとするが、そこには……(「白銀の誓い」)。

紀元70年のローマを舞台に始まる、歴史ミステリー「密偵ファルコ」シリーズ。ミステリーと言っても、スパイものに近い雰囲気。我が家では、母よりは父がはまっていたので、そっち系の人の趣味に合うのかもしれません(笑)。

見てきたかのように詳細で生き生きとした、古代ローマの世界描写と、ファルコの軽妙な語り口、そして、登場人物達の個性派ぶりがとても楽しい、贅沢なシリーズです。ローマに遊びに行くなら先に読んでおくと二重に楽しめるらしい(笑)。時のローマ皇帝ウェスパシアヌスもいい味出してますし、私は「ヒラメの皇子さま」が好き(爆)。このごろはどんどん舞台も広がって、レギュラーメンバーも増えて、ますます盛り上がってきました。

翻訳が止まってしまうようなことになったら、英語で読むしかないなー、と思っていたんですが、最近はコンスタントに出てくれているのでちょっと安心。これを英語で読むのは、さすがに厳しいかなーって思っています。ファンタジーと大差ないかも、ではありますけど。

最近読んだ分の紹介を以下に。


「オリーブの真実」 田代泰子訳 光文社文庫 2004
"A Dying Light in Corduba" 1996

今回の舞台は現在のスペイン。ローマって、本当にすごかったんだなあって改めて思ったりします。守備範囲広すぎ。

ファルコの天敵、密偵頭のアナクリテスが襲撃され、重症を負った。どうやら、ファルコも招かれて潜入していたオリーブ油生産者パーティで、何らかの陰謀が進められていたらしい。アナクリテスをライバル視する官房長ラエタの抜擢(笑)で、ファルコは陰謀の中心、バエティカへ派遣されることになるが……。

という感じの、いつものお話です。ファルコ達の毒舌が相変わらず素敵。オリーブ油の絞り方とか、なかなか興味深かったです。


「水路の連続殺人」 矢沢聖子訳 光文社文庫 2004
"Three Hands in the Fountain" 1996

舞台は久しぶり(?)に、ローマ。やはり、ローマはいいですねー(笑)。
市民の生活を支える、世界に冠たるローマの水道。その噴水の1つから、切り落とされ、腐敗した腕が相次いで発見された。行きがかり上、状況を調べ始めたファルコだが、実は水路にはかなり前からバラバラ死体が流れついていたらしい。
祭りの度に繰り返される残虐な殺人。被害者は、すべて女性だった。元執政官フロンティヌスの命を受け、ファルコは停職中の親友、ペトロニウスと捜査を開始する……。

今回は、ファルコには珍しく、普通の猟奇殺人事件のお話(笑)。皇帝方は出てこなくて、日常生活に近い感じです。でも、もちろん舞台は古代ローマなんですけどね。

今回のファルコの捜査上の相棒は親友ペトロニウス。けれど、ファルコが昔から蛇蝎のごとく嫌っている密偵頭のアナクリテスが虎視眈々とその座を狙っています(爆)。そして、新たな依頼主であるフロンティヌス。この人は実在の人物。珍しく有能で実直な政治家(笑)。これからレギュラーメンバーになってくれたら楽しいなあ、と思います。

全体としてみれば小粒なお話でしたが、キャラクターは相変わらず生き生きとしていて楽しいです。ローマの水道に関する蘊蓄もたっぷり。ローマ(もしくはその手の遺跡)に行くことがあったら、よく見てこようっと(笑)。
2004.10.25


「獅子の目覚め」 田代泰子訳 光文社文庫 2005
"Two for the Lions" 1998

相も変わらず儲け仕事に縁のないファルコ。
とあるいきさつから相棒に成り上がった天敵アナクリテスとともに、皇帝ウェスパシアヌスの国勢調査の仕事をもぎとった。査察対象は剣闘士の興業を仕切る興業師(ラニスタ)たち。しかし、査察開始直後、公開処刑の執行役もつとめるライオンが何者かに殺された……。

前半はローマ、後半はアフリカの旅のお話。ええ、相変わらず古代ローマは奥が深いですねー。今回の見どころはやはり、アナクリテスとのパートナーシップでしょうか。頭をかち割られたためか、すっかり性格の変わった(?)アナクリテス。頑張ってます。なんだか、だんだん気の毒に(笑)。ファルコ、大人気ですが、誰を本当のパートナーにするんでしょう? ペトロニウスの復活なるか? 今後の展開が期待されます。

ローマの剣闘士、有名ですが、やはり内実はなかなか大変だったようで……。ライオンも、捕まえて馴らして船で運んで、ですもんね。その時代のローマ、本当にすごいなーっていつも思います。
2005.05.26

「聖なる灯を守れ」 矢沢聖子訳 光文社文庫 2005
"One Virgin Too Many" 1999

「ローマ人の物語:危機と克服」を読んだ直後に読みました。あっちにもこっちにもそっちにも歴史上の伏線が(爆)。というわけで、何でしたらぜひ一緒にどうぞ。思わず、「ファルコの中では今何年?」とか言いつつ調べてしまいました。良かった、まだまだ大丈夫ー(←何が?)。

では、今回のお話。
トリポリタニアでの戸口調査を無事終了し、ローマに戻ったファルコ。しかし、家族の問題も解決し終わらぬうちに新たな依頼人が押しかけてきた。依頼人はいかにも貴族の生まれの6才の少女。まともに取り合うことをせず、何とか追い払ったファルコだが、少女はローマ最高位の神官、ユピテル神官の孫娘で、まもなく行われるウェスタ神殿の巫女の抽選(つまり、名ばかり)の最有力候補だった……。

しかも、別の神殿につながる聖なる森では、神官が殺害。ヘレナの弟アエリアヌスが死体の第一発見者だったために、大騒ぎ。ということで、なんとファルコの次なるパートナーは、ヘレナの可愛くない方の弟、アエリアヌスです。最初は親友、次は天敵、そして、気に入らない方の義弟。いえ、可愛い義弟ともちょっと組んでみたわけですが、ファルコ、大人気ですね(笑)。大変です。

うーんと、今回は、宗教が絡んでいるのが特色だけれど、わりとドメスティックなお話です。日本の、ちょっと昔風のお家どろどろ愛憎劇、みたいな感じでしょうか。ファルコとしては、ちょっと物足りない感じでした。でも、やっぱり、ローマだなあって感じ(笑)。やっぱりそれが良くて、ついつい読んでしまうんですよね。
2005.10.15

「亡者を哀れむ詩」 田代泰子訳 光文社文庫 2006
"Ode to a Banker" 2000

とうとう昇格を認められたものの、相変わらず仕事を求めて奔走しなければならないファルコ。しかしある日、旧知の出世頭ルティリウス・ガッリクスに、一緒に自作の詩の朗読会を開こうと誘われる。場所はマエケナス庭園。そこで何故か、彼らは見知らぬ人間に開会の挨拶をされてしまう。実はその男は出版工房の持ち主で、翌日、ファルコに詩集の出版を持ちかけてきた。しかし、その後、男は何者かに惨殺されて……。

ローマの暑い夏。警備隊に事件解明を依頼されたファルコの地道な調査が始まります。今回のポイントは「ローマの銀行業界」。そうかそういう風になってたのかー、という感じでした(笑)。話としては小粒ですが、どろどろの人間関係とてんこ盛りの怪しい人物という、普通のミステリー仕立て。これはこれで面白いです。相変わらずのローマですしね。

人間関係の整理整頓も、少しずつ進んできました。アナクリテス、強く生きてね(笑)。
2006.04.29

「疑惑の王宮建設」
矢沢聖子訳 光文社文庫 2006
"A Body in the Bath House" 2001

待望の次女も生まれ、新居も出来上がって順風満帆のファルコ一家。結局、ファルコは父親と家を交換してテベレ河畔の家に暮らすことになったのだが、それは満足のいく取引だった。しかし、彼の父が住むことになった新居の浴場から異臭が漂い始め、ファルコは父と共に床を掘り返すことに。そして案の定、床下からは腐敗した死体が。下手人はおそらく、問題の多かった請負師、グロックスとコッタ。だが、彼らはすでにローマから姿を消していた。同じ頃、遠いブリタニアの地では王宮建設に遅滞が生じ、皇帝は事態の解決を図るためにファルコを送り込むことを決めていた……。

というわけで、今回の舞台はブリタニア(現在のイギリス、フィッシュボーン)でございます。ええ、古代ローマの時代にはあそこもローマの一部(苦)。なんて広大なんだローマ帝国……。日差しの明るいローマからはるばる旅をして、着いたところは曇りの多い寒々しい未開の地、というファルコの印象、いかにもといった感じですねー。なるほどなあ。でも、ローマ人はそんなところでもさっさと水道引いてでっかい浴場作ってたりする訳ですが(笑)。

この巻は、このシリーズには珍しく、まず、イギリスで発見されたこの王宮の遺跡があって、それを元に作られたのだそうです。水道管の敷設工事をしようとして発見された古代ローマ時代の宮殿の遺跡。うっわー、っていう感じですよね。楽しそう。

家族を伴い、はるばるブリタニアまでやってきたファルコは、いつものように地道な捜査を続けます。密偵の仕事は派手な立ち回りではなく、丹念に事実を調べ上げ、証拠を積み上げること。そして必要に応じて、秘密裏に最善の方策を当事者達に与えること。政は正義だけでは動かない。どこの世界も、いつの時代も、色々ありますよね。

ヘレナの2人の弟たちが、今回もファルコの下で大活躍(笑)。そろそろ大分大人になってきたみたいです。
2006.12.02



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