ファンタジー・海外

Mercedes Lackey
マーセデス・ラッキー

「異世界ファンタジーの女王」とか(笑)。
さすがにそうは思っていないのですが、私は「女王の矢」の続きを読むためだけに洋書読みになりました。
現代のファンタジーの書き手の中では一番好き、かな。
でも、かなり沢山本が出ているので、制覇への道は遠いです。

この方の作品はキャラクター主導型の異世界ファンタジー。世界観はきちんと作られていますが、世界描写は「まず人がいて、その視線の先に世界がある」というもの。緻密で詳細な描写がお好みの方にはちょっと物足りないかもしれません。その分、文章は比較的読みやすいかな、と思うのですが、いかがでしょう。


ではまず、ヴァルデマール年代記シリーズのご紹介。

「女王の矢」(上・下)
M・ラッキー著 笠井道子訳
現代教養文庫 1990, 1991
"Arrows of the Queen" 1987

ヴァルデマール王国の辺境に住む砦族の少女タリアは、本好きで内気な、一族の中では変わり者。女性を低い地位にある者と見て、自由に生きることを許さない一族にあって、彼女はいつも外の世界にあこがれていた。けれど、13歳の誕生日に、彼女は嫁入りを告げられる。とてもそんなことには耐えられない。タリアは偶然出会った白馬の背に乗って、都へ向かうが・・・。

ヴァルデマールシリーズ始まりの1冊。
タリアを乗せた白馬は、偶然訪れたのではなく、彼女を探しに来た「神馬(コンパニオン)」。かつて、王国の創始者によって、神の力を借りて生み出された神馬は、すべて純白の馬体とサファイアのような青い目を持つ奇跡の生き物で、その乗り手「使徒(ヘラルド)」とともにヴァルデマール王国を支える存在です。
その神馬の一頭に選ばれ、「学院」に学ぶことになったタリアを待っていたのは、周囲の多大なる期待と、彼女を危険視する者達の陰謀、そして、友人達との出会いでした。

常に自分を目立たせないように、しかられないようにと小さくなって生きてきたタリアが、新しい生活の中でだんだんに自信と余裕を身につけていく過程がとても感動的な、ジュブナイル系のファンタジーです。神馬との交感も素敵。次巻からは、だんだんに内容が重くなり、ジュブナイルとも言えなくなってくるんですけどね。

このお話は、以下の2作との3部作です。翻訳はされていません。

"Arrow's Flight" 1987
学院を卒業し、先輩使徒と組んで地方回りの実地訓練に出ることになったタリア。相棒は貴族出身の美青年クリス。使徒としての実力も経験も豊富で、性格のいい彼だが、尊敬する伯父からタリアについての悪意ある噂を吹き込まれ、心に迷いが生じてしまう。一方、タリアは、力を増し始めた自らの「思考感知」能力を御しきれず・・・・。

"Arrow's Fall" 1988
訓練期間を終え、都に戻ってきたタリアとクリス。力も安定し、自信も身につけた彼女に、女王は新たな任務を与える。それは、隣国の王子アンカーからの、王女エルスペスへの結婚申し込みの真意と隣国の状況を確認すること。そして、出立前の2人に、女王たちはある符丁を教える。使徒を表す小さな矢。完全に二つに折ればそれは死を、首のところで折り曲げれば「帰還不能。救出不要」。そして、訪れた隣国ハードーンでは、恐ろしい敵が彼らを待っていた。

この3部作を読んでいないと、基本が押さえられない感じでちょっともったいないです。ちゃんと翻訳が出てくれるといいのですが、どうかなー。この後は、創元推理文庫から少しずつ刊行されています。

「女神の誓い」
マーセデス・ラッキー著 山口みどり訳
創元推理文庫 1995
"Oathbound" 1988

山賊に一族を皆殺しにされ、復讐を女神に誓った遊牧民族の女戦士タルマ。旅の途中、彼女は、不思議な剣を持つ女魔法使いケスリーと出会い、コンビを組むことになる。ケスリーの持つ剣はそれを持つ者に強力な守護の力か最強の剣士としての力を与える魔法の剣。しかし、その剣には「助けを求める女性の声に逆らえない」という厄介な副作用があった。

タルマ&ケスリー1作目。この本からラッキーに入った方も多いでしょう。この本から読むと、シリーズの先の展開に「何で?」と思ってしまうとか(涙)。でも実は、もっと先に進むとまた、こちらの設定も生きてくるんですよ。大丈夫。

「裁きの門」
マーセデス・ラッキー著 山口みどり訳
創元推理文庫 1996
"Oathbreakers" 1989

吟遊詩人に歌を広められ、妙な具合に名が知られてしまって苦労するタルマとケスリーは、とある傭兵隊に身を置くことにした。一流の傭兵となるために、彼女たちにはまだまだ経験が必要なのだ。だが、冬を前にして、傭兵隊長は突然郷里に呼び戻されることに・・・・。
コンパニオン(こちらでの訳は「ともに歩むもの」)やヘラルド(「使者」)が登場し、2つの物語世界を1つにした作品。

「誓いのとき」
マーセデス・ラッキー著 山口緑訳
創元推理文庫 1999
"Oathblood" 1998

タルマ&ケスリーの短編集。2人の作った学校の話など、次世代につながる作品集です。


この後、未翻訳の3部作が刊行されています。

"Magic's Pawn" 1989
"Magic's Promise" 1990
"Magic's Price" 1991

知る人ぞ知る「ヴァニエル君」(笑)。
そのうちちゃんとレビューします。


それから、ヴァルデマール本編とタルマ&ケスリーをつなぐ直接の作品として、こちらが出ました。

「運命の剣」(上・下)
マーセデス・ラッキー著 山口緑訳
創元推理文庫 2001
"By the Sword" 1991

ケスリーの孫娘、傭兵隊長ケロウィンの物語。
魔法を嫌う父親の元で館の切り盛りをしていた少女ケロウィンは、突然の襲撃で奪われた兄の花嫁ディエルナを救い出すため、祖母ケスリーの元を訪れる。祖母はかつて、相棒の女戦士タルマとともに凄腕の傭兵として名をはせた、高名な魔法使いだった。

ケロウィンはタルマをして「名手」と評させた程の天才。そして、ケスリーの「剣」の継承者です。ラッキーの書く物語の女性達はみんなとってもすごい人達ですが、彼女はその中でも物理的な最強レベルにあるでしょう。でもちゃんと悩みもするし数知れない苦労もしていくし、決してスーパーガールではありません。そこがいいところですよね。


そして、やっと翻訳刊行が始まったこちら。
でも本当は、「女王の矢」の続きを訳してからにして欲しかったです。

「宿命の囁き」(ヴァルデマールの風・1)
山口緑訳 創元推理文庫 2003
"Winds of Fate"

魔法を遮る見えざる障壁を持ち、魔法使い達が正気を保てずに立ち去っていったはずのヴァルデマール王国。しかしその日、世継ぎの王女を襲った刺客は、魔法によって外部から宮殿内に送り込まれていた。同じ頃、国境地帯から魔法襲撃の報が届き、評議会は騒然となる。一体何故、どうやって? 長い間ヴァルデマールを守り続けてきた障壁の力が弱まりつつあるのか? もしそれが消えてしまったなら、魔法使いを擁する隣国に狙われているヴァルデマールはどうなる?

ヴァルデマールを支える<使者>の一員でもある王女エルスペスは、事態の打開策を求め、高位の魔法使いを捜す旅に出る決意をする。ヴァルデマールを救い、ヴァルデマールに残る潜在的魔法使い達に魔法を教えることの出来る魔法使いを。そして旅立ちの日、彼女は師である傭兵隊長ケロウィンから一振りの剣を手渡される。その剣は<もとめ>。かつてケロウィンの祖母ケスリーと共にあり、その後ケロウィンを生ける伝説の人物と成した魔法の剣だった。

今回のお話はケロウィンのお話からさらに5年後、アンカーの軍隊が再び脅威となり始めた時代が舞台です。そして、エルスペスの他に主人公がもう1人います。シン=エイ=インが<鷹の兄弟>と呼ぶ、大昔に彼らと別れた魔法使い達の一族、テイレドゥラス族の青年<暗き風>。彼はかつては優れた魔法使いであり、とある事情から今は魔法を捨てて一族の土地を守る見張りの任についています。エルスペスの話と<暗き風>の話が章ごとに交互に語られていくのがこの巻の大きな特徴。この形式は、今後、様々に主人公を変えながら年代記全体に使われていきます。ってことで、次の巻の視点は誰でしょう?

ところで、私はエルスペスはやっぱりちょっと苦手です(笑)。英語で読んでたときもだめでしたけど、日本語でもだめでしたねー。まあ、彼女ももう少したつともうちょっと大人になるんですけど、まだまだー。

あ、それから、下手に「日本語にカタカナでルビ」にせず、なるべく日本語に訳していく翻訳の方針はすごくいいなと思うんですが、個人的には「要石」はかんべんして欲しかったです(笑)。なんだか日本語の印象が強すぎて別の物に思えて仕方ありませんでした。原文では"Heart Stone"。まあ、たしかに要石なのかもですが、ううーん。

「失われし一族」(ヴァルデマールの風・2)
山口緑訳 創元推理文庫 2006
"Winds of Change" Mercedes Lackey, 1993

長い旅の果てにたどり着いたペラジールの地で、伝説の魔法使いの一族〈鷹の兄弟〉に、〈翼の姉妹〉として迎えられたヴァルデマールの王女エルスペス。彼女は当初の目的通り、彼らから魔法の修行を受けることになった。しかし、指導役を務める〈暗き風〉との感情的な行き違いが多く、なかなか思うように修行がはかどらない。一方、彼女と共に〈翼の兄弟〉として一族に迎えられたスキッフは、どこかに姿を消してしまったナイアラを探す旅に出る。同行するのは〈暗き風〉の兄〈冬の月〉。魔法に守られた〈谷〉の外には冬が近づいていた……。

この巻は「テイレドゥラス族の謎」の巻であり、ラブラブの巻(笑)でした。3部作としては中継ぎの部分なので、大展開、というわけではない……んですけど、やっぱり波瀾万丈ですよね、これはこれで。エルスペスと〈暗き風〉の不器用な恋物語も楽しいですし、何よりやっぱりテイレドゥラス族がいいです。私はこの人々の生き方考え方が大好き。もっとも、この3部作では、まだまだすべてが語られてる訳ではないんです。ク=シェイイナ族は立て直しに懸命で、ごく普通の日常生活はないようなもの。テイレドゥラス族についてもっと極めたい方はシリーズのもっと未来の話である梟3部作を、鷲獅子やカレド=エイ=インについてもっと極めたい方はずーっと過去の話であるグリフォン3部作をどうぞ。って、そんなところまで訳されるのは一体いつになるんでしょう。先は長そうです。

さて、ヴァニエル君は名前しか出てきませんでしたが、この人はとうとう出てきました(笑)。ヴァニエル君にそっくりとかいう噂(?)のある、テイレドゥラス族の天才魔法使い〈炎の歌〉。神か精霊の如く美しい男(訳文では「神のごとく美しい」だったかも)。しかもものすごい実力派。で、性格もそれに見合うだけの……(爆)。この人、とっても人気があるらしくて、「風」「嵐」はもちろん、「梟」3部作にまで登場するんですよねー。いやもう、私はこの人が出てくるだけで毎回爆笑してました。絶対、この人専用のBGMがあるよなーという感じ? 表紙の彼は、私的にはちょっとイメージ違いますね。いえ、PBの絵については考えたくないですー。

エルスペスは、私にはやっぱりちょっと苦手な女の子。だいぶ大人になってきましたが、それでも読んでいて腹立たしいところが色々と。苦労性の〈暗き風〉は結構好きなんですけどね。それと、翻訳で読むとどうしても、〈共に歩むもの〉の口調がえらそうすぎるのがちょっとひっかかります。読んでて嫌なやつに思えちゃうんですよね。実際には、そこまではいかないよなって思うんですが。あ、〈もとめ〉はもともとえらそうです(笑)。
2006.02.05


以下は未翻訳です。いつ出るのかなー。ちゃんと出るのかなー。どきどき(笑)。

「ヴァルデマールの風」3部作の残り1冊。

"Winds of Fury" 1993

PB版の挿絵、誰か何とかしてー(爆)。

この後は2つの3部作が並行して書かれていた模様。
ひとつはヴァルデマール先史時代の物語。

"The Black Gryphon" 1994
"The White Gryphon" 1995
"The Silver Gryphon" 1996

主人公はグリフォン(笑)。
このシリーズの中では、彼らは偉大な魔法使いUrthoによってこの世に生み出された魔法生物ということになっています。

もうひとつは、「風」の直接の続き、「嵐」3部作。

"Storm Warning" 1994
"Storm Rising" 1995
"Storm Breaking" 1996

この3部作で、タリアの3部作から続いていた一連の危機のお話は完結します。詳しくはそのうちに。


その後は、こちらの3部作が刊行されました。

"Owlflght" 1997
"Owlsight" 1998
"Owlknight" 1998

「嵐」の数年後の国境地帯が舞台の、初心に返ったようなジュブナイル。私は結構気に入ってます。

そして、「個人史」がぽつぽつと。

"Brightly Burning" 2000
積読中。「炎の嵐ラバーン」のお話らしい。

"Take a Thief" 2001
積読中。スキッフの少年時代のお話。

"Exile's Honor" 2002
アルベリッヒの若い頃のお話。つい読んでしまいました。

"Exile's Valor" 2003
ヴァルデマール年代記シリーズ最新巻。この後、シリーズ休筆中とか。

テドレル戦争が終わり、平和を取り戻したヴァルデマール。しかし、王を喪った痛手は大きかった。若くして即位したセレネーは、「君主の孤独」に悩み、次第に笑顔を失っていく。
一方、武術師範として「学院」の武術場で日々を送るアルベリッヒは、王宮からは一歩引いて、自らの任を果たしていた。首都の闇に紛れて陰謀をめぐらす人間達に目を光らせること。事件を未然に防ぐこと。それが、彼の影の任務だった。だが、そこには彼1人では追い切れない何らかの陰謀が進行していた。

「個人伝」シリーズ第4弾。前作に続いて、主人公は「女王の矢」に登場した実力派の無口な武術師範アルベリッヒです。相変わらず渋い。なかなか微笑ましいところはあるんですが、やはり実力派。存在感が違います(笑)。その他の登場人物も、ヒロイン(ちなみに、それぞれ恋愛対象は別の人)のセレネーを始め、在りし日のタラミール、若き日のジェイダスやエルカース、ケレンにイルサ、と、「女王の矢」をお読みになった方なら「おお」と思うような人々がたくさん。懐かしくも楽しいです。

今回のお話は、とうとう、セレネーの「不幸な結婚」のお話。エルスペスの父である、キャラサネラン王子との結婚の真相が語られます。なんだか、セレネー、可哀想すぎ。周りの人間も、そこまでわかってるならああなる前に何とかしろー、って感じ?

というわけで、「女王の矢」がお好きな方ならこの本は楽しいと思うのですが、でも、やっぱりこれは、「嵐」3部作まで読んでから読む方がいいかなと思います。そうしないと、奥まで楽しめないというか、多分、腹が立つ部分が多いというか。まあ、前の巻の時ほどではないでしょうけれど、そうかなー、って。

ラッキーの文章、相変わらず心理描写が手堅いです。丹念で、共感しやすい。やっぱりすごいなって思いました。
2004.10.13

他に、若手作家などが競作したアンソロジーが2冊出ています。まだ読んでいません。以上がヴァルデマール関係。
それ以外にも色々書いているらしいのですが、最新シリーズはこちら。"The Dragon Jousters"

"Joust" 2003
"Joust"、それは、ドラゴンに騎乗すること。
Altaの国で代々続く農園に生まれ育った少年Vetchは、ある日、隣国Tiaの侵攻により父を殺され、農奴として農園とともに売り飛ばされた。彼を買ったのは強欲で情け容赦のない金持ちの男。そしてVetchは、農奴が奴隷以下の存在であることを身をもって知らされる。ろくに食べ物も与えられず、厳しい労働を課され、暴力をふるわれ、蔑まれる毎日。絶望と憎悪に塗りつぶされたVetchをそこから救い出したのは、偶然訪れたJouster、Ariだった。虐待され、やせ細ったVetchを見たAriは、自分のドラゴンの世話係として彼を引き取ってくれたのだ。

農奴出身の初めてのDragon Boyとして、Vetchは、やはり周囲から冷ややかな扱いをされることになる。しかし、そこには毎日の温かい食事とまともな服、安心して寝られる寝床があった。そして、Ariのドラゴンは、そこで飼われているすべてのドラゴンの中のたった1頭の例外、卵から孵され、愛されて育てられた、人間を仲間と思っているドラゴンだった……。

3部作なのかな。今のところ年代記ではなく、同じ主人公が活躍するお話の模様です。この巻は本当に少年時代というか、始まりのお話。

古代エジプト風の「ドラゴンのいる」異世界を舞台にしたお話です。ドラゴンは、モンスターではなくて、マキャフリィの「パーン」シリーズのドラゴンに近い雰囲気の、でもこの世界では野生動物。人間は、ドラゴンが子どものうちに巣から盗んできて、ドラゴンにとっての「鎮静剤」のようなものを与えて従わせ、騎乗しています。だから、ドラゴンは基本的には人間が嫌い。そして、人間の方も、ドラゴンをただの便利な(でも恐ろしい)乗り物と思っている人の方が多いのです。その中で、本当にドラゴンを大切に育ててきたAriとそのドラゴンKashetは、奇跡的な例外でした。Vetchは彼らから多くを学び、ドラゴンを愛することを覚え、重用されるようになります。けれど、彼の中には常に、「敵国人」である自分がいたのです。

お話の展開そのものは、いつものラッキー(笑)。ある意味、大いなるマンネリなのかも、と思うのですが、でもやっぱり、少年(少女の場合もあるけど)が新たな世界を知って、頑張れば報われるということを知って、どんどん成長していくお話というのは読んでいて楽しいです。世界設定も明確で読みやすい。おとぎの世界よりは、やはりこういうオリジナルのファンタジーの方が、ラッキーものびのび書いている感じで面白かったですねー。それに、ドラゴンが可愛い。ここのドラゴンは青や赤の綺麗な生き物です。ちょっと「エルマー」のりゅうを思わせる色彩。それが、なついた相手の後ろを犬のようについて歩く(笑)。なついてないドラゴンは、凶暴ですけどね。

魔法も出てくるのですが、今のところ、やはりこれは「ドラゴンもの」。今後の展開が楽しみです。
2005.01.29

"Alta" 2004
シリーズ第2巻。1巻のネタバレを避けたい方は、この先は読まないでくださいね。いえ、そんなにバラしてないですが(笑)。

農奴として、敵国出身の、農奴あがりのDragon Boyとしての生活から逃れ、自らのドラゴンAvatreとともに砂漠を越えて故国Alta に帰り着いたVetch。彼は、砂漠の案内人の助言に従って、農奴として、子どもとしての自分を捨て、一人前の人間、Kiron として人々の前に立とうと努力する。彼は敵国Tia のそれに較べてはるかに劣っているAlta のDragon Jousters に自らの知識を伝え、侵略された故国を回復したいと願っていたのだ。ただの子ども、逃げ戻ってきた農奴の言葉など誰も聞いてはくれない。しかし、本当によく馴れて言うことを聞くドラゴンを連れたJouster の言うことには、人々は耳を傾けないわけにはいかないだろう。

首都への旅の途中、偶然、貴族の少女を救ったKiron は、彼女と彼女の父の助力により、Alta のJousters の司令官に認められ、同じ年頃の少年達とともににDragonを育てることになる。彼が願ったとおりの、夢のような日々が始まった。しかし、Alta もまた、彼が夢に見ていたような楽園ではあり得なかった。Altaを陰で支配しているのは冷たい目をした恐ろしい魔法使い達。彼らこそが、戦争を望み、民に苦労を強いている張本人だった……。

前作"Joust"の直後から始まるお話。表紙のイラストでは何だか見た目がおっさん(爆)ですが、主人公Kiron はその時点で本人推定15歳。まだまだ少年の成長物語は続きます。一応ロマンスの気配も(笑)。ヒロインのAket-ten はやっぱりラッキーのヒロインらしい、思慮深く聡明で、強い意志を持った女の子。このシリーズにはあんまり女性が出てこないんです。今後に期待? でも、その分、ヴァルデマール年代記ではちょっと強すぎることがあったフェミニズム系の考え方は影を潜めていて、読みやすいジュブナイル小説に仕上がっている気もします。友情と、信頼と、日々の努力。前作で、「1人も同世代の友達がいない」ことを寂しく思っていたKiron ですが、Alta では何と王子様も含む、信頼できる仲間達と一緒。もちろん、彼らの育てるドラゴンもそれぞれ個性的で可愛いです。そして、色とりどり(笑)。ドラゴンには、保護色は必要ないからなんでしょうか? なかなか強烈です。

物語は、Alta の神官達から力を奪い、自らを肥大させてゆく魔法使い達の陰謀を中心に、次第に外へと広がっていきます。Kiron は自分で考え、必要とあらば自己を律して行動することを知っている男の子。いい子すぎるって思う人もいるだろうなーって思うんですが、私はこういう子の方が読んでいて楽しいです。
2005.02.27

"Sanctuary" 2005

久々に洋書一気読み(でも1週間ちょっとかかった)しました。1年近くPB待ちをしていて、届いてからもなかなか片付け中の日本語の本が片付かず、やっと(苦)。やっぱり、大好きな作家の新作を読むというのは、何物にも勝る幸せ感があります。今はもう、さほど気が乗らない本でも英語で読めますが、たまにこうやって本当に好きな本を読むとその違いは鮮明ですねー。物語が常に先にあって、言葉は二の次(笑)。いい感じです(爆)。

では、今回のお話。
Altaを次第にその手に納めていく強大な魔法使い達の魔手を逃れ、今や「神の口」となったKalethとともに、砂漠の中の失われた都市に移り住んだKironと仲間のJouster達。彼ら以外のJousterのドラゴンは、ドラゴンを従わせるために不可欠だったtalaの実が入手できなくなったために野生に戻っていた。彼らは新たな世代の最初のJousterであり、魔法使い達に搾取される人々の最後の希望だった。彼らは、失われた都市を"Sanctuary" と名付け、そこを新たな希望の地として、できるところから活動を始める。やがて、Altaから、そしてTiaからも、救いと避難所を求める人々がSanctuaryに集まってくるようになった。新たなドラゴンの卵を孵し、希望に満ちた新たなJousterを育て始めるKiron達。しかし、外の世界では、ますます魔法使い達が力を増し、二つの国は再び戦争を始めようとしていた……。

という物語に、「身分違いの恋」に悩むKironの成長物語がからんで、今回も割と短い期間のお話になってました。Kiron君、まだまだ若いです(笑)。真面目で前向き。周囲にはとっても高く評価されているのに、自己評価は低い。でも、やるときはやるし、どんな経験も無駄にはならないのだとこの巻でもちゃんと証明しています。本当にいい子なんですよねー。いい子すぎかなあ。

今回は、地震の話が大きく扱われていました。書かれた時期から考えると、現実に起こったことが何らかの形で投影されたものなのでしょうか。社会の崩壊も、少数の専横も、それを「ただ見ていただけで何もしなかった」人々のことも、そうやって読んでいくとそのようにも読める。もちろん、物語は物語だから、そこには救いと希望があります。それは多分、著者の願いでもあるのでしょう。人は夢を見ることができる、それを現実にするために努力することができる、そしてそれが本当に世界を変える力になると。Kalethの語る、彼の予見した唯一の明るい未来は、人々の心に宿り、力となります。神の力にすがるのではなく、できるところから、自らの力で夢を現実にする、その意志を持つ。それはとても難しいことですけれども。

この巻で、一応、魔法使いのお話には決着がつく形になっていたし、次巻予告が入っていなかったので、まさかやはり3部作? と悲しくなっていましたが、調べてみたら、この秋に4巻目が出ることになっていました。まだまだ謎も多いですし、続いてくれるのなら嬉しいです。でも、秋にハードカバー? PBになるのはいったいいつ……? ううううううう。あまりにも遠い。
2006.05.29


それから、こちらもシリーズ化されたようです。でも、何故にハーレクインのクセにハードカバー?

"The Fairy Godmother" 2004

五百王国、そこは、おとぎ話が現実に、何度となく繰り返される魔法の世界。
シンデレラとなるべく生まれついたエレナは、意地悪な継母と2人の継姉にこき使われたあげく、財産を使い果たして他の街へと逃げ出した彼女たちに留守を任され、めぼしい家財道具すべてを持ち出された屋敷に1人残される。王子様も魔法も訪れてはくれなかった彼女は、すでに21歳になっていた。
やっとめぐってきたこれは最初で最後のチャンス。彼女は、折よく街で開かれたモップ市(ある種の就職相談会、というかその場で就職交渉大会)に朝早くから参加するが、誰1人彼女を雇ってはくれなかった。誰もが彼女の継母の怒りを恐れたのだ。しかし、誰もが立ち去った夜の広場に、一台の馬車が現れ、彼女を呼び止める。乗っていたのは、1人のやさしそうな女性だった……。

ハーレクインのファンタジーレーベル"Luna"の創刊記念に刊行されたラッキーのファンタジー・ロマンス小説です。色々な意味で、ものすごくラッキーらしい作品でした。でも、ロマンス小説としてはどうなんでしょう? この本、500頁近いんですが、それにしても、王子様出てくるまでに200頁以上あるんですよ?(笑)。しかも、なかなかラブラブにはならない(爆)。いえ、いいですけどね、私は普通にラッキーのファンですから。

さて、このお話は、シンデレラのノベライズというよりは、おとぎの世界全体を風刺した、意外と突っ込みの深い物語です。おとぎ話の主人公となるべく生まれた人間の周りには常に魔法が漂い、成長するに従ってその力を強めて、おとぎ話の実現に向けて動き始める。しかし、何らかの要因でその物語が上手く展開できなかった時、その魔法はその人間に宿り、一つ間違えれば悪の魔法使いになって世界に仇なす存在へと彼らを変貌させてしまう。それを防ぐために、そして、不幸な物語が現実とならないように、世界では良い魔女や魔法使いや、そしてFairy Godmother(昔読んだ童話集だと「仙女」ですね)が陰に日向に働き続けている。というような設定で、ヒロインのエレナは「生まれ育った国にちょうどいい年齢の王子様が存在しなかった」ためにシンデレラになりそこなった、強い魔法の持ち主。彼女を迎えに来た女性はその国(および周辺20カ国)の仙女。エレナは彼女の弟子となり、やがて一人前の仙女として働くことになります。ええ、すでにシンデレラではないんですねー(笑)。

出てくるお話も、シンデレラはもちろん、眠り姫にラプンツェル、エンドウ豆の上に寝たお姫様、ガラスの城のお姫様など盛りだくさん。ちなみに、王子様はロバ(爆)。ドレスやお城の描写も詳細で華麗な、サービス満点の1冊です。
ヒロインがとてもとても現実的で、理知的で、でも、とっても「真実の愛」に憧れていて、そのあたりがなかなか切ないお話でした。かなり女性上位な感じもするのですが、許容範囲かな(笑)。

文章は、ええとー、ロマンス小説にしては難しめでしょうか。でも、この後でちょっと普通のファンタジー開いてみたら、やっぱりこちらの方が全然簡単な感じでしたので、ラッキーとしては抑えめに書いたつもりなのかも(笑)。フォントがすごく読みにくいので、それだけは何とかして欲しかったです。
2005.01.26

"One Good Knight" 2006

アカディアの王女アンドロメダは、その美貌で知られる母、女王カシオペアとはまったく似ていない、地味な本好きの少女だった。子供の頃から、「あれをしてはなりません」「これをしてはなりません」「それは王女としてふさわしくありません」と言われ続けた彼女の心の支えは本と、彼女を常に守る護衛達の存在。そして、彼女はいつしか、国政に必要な様々な知識を身につけていた。しかし、女王は彼女の話など全く聞いてくれない。いつまでもただのお飾りの王女としてしか扱ってくれない。思い悩んだアンドロメダは、自分の考えをレポートにして、母の補佐を務めるソロンに渡してみることにした。それはとうとう母の目を彼女に向けさせ、彼女の生活を一変させたが……。

"Five Handred Kingdoms"の長編第2巻。今回は、ギリシャ神話のアンドロメダ王女の物語……かと思ったら、やっぱりものすごく違うお話になっていました(笑)。超美女であるはずの彼女は、魔法で作られた眼鏡をかけた本の虫。彼女がいけにえに捧げられるのもお化け鯨ではなく、ドラゴンです。そして彼女を助けに来るのもペルセウスではないんですよ、もちろん(笑)。様々なおとぎ話が様々なバージョンで何度となく実現される五百王国。今回も、登場人物達は、おとぎ話を現実化しようとするTradition をいかに味方に付けるかに知恵を絞ります。前作のヒロイン、エレナも登場して、物語はやっぱりギリシャ神話よりはグリム童話な世界に。

で、やっぱり、あんまりロマンス小説じゃなかったです(笑)。一体いつ誰とラブラブになるんだろうと本気で心配してしまいましたよ(爆)。これは、ラッキーお得意の、少女の成長物語。母親に愛されなかった内気な王女様が、自分の力で自分の場所を、友人を、そして愛する人を見つけていく物語です。でもって、ある種、本好き人間の夢のお話ですねー。色々な意味でうっとりでした(笑)。アレックスよりはこっちの彼の方がいいなあ、私も。

このシリーズ、まだ続くようです。3巻目もこれから刊行予定。でも、ハードカバーなんですよねー(遠い目)。ってことで、続きはまた来年(笑)。
2007.01.13

その他のハーレクインはアンソロジーですね。。

Mercedes Lackey, Rachel Lee, Catherine Asaro
"Charmed Destinies" 

ハーレクイン・ロマンスが04年1月から開始したファンタジーの新レーベル"Luna"の予告編として出されたアンソロジーの2冊目です。

Mercedes Lackey "Counting crows"
ヒストリカル・ロマンスの「政略結婚で冷酷非情な領主に嫁いだヒロイン」パターンのお話です。このパターンのお話は普通、「夫のその態度には裏に深い事情があって……」な展開か、「夫が事故や戦争であっさり死んで」な展開になるのですが、そこに魔法的解決策を取り入れるとどうなるか、というのが今回のこのお話でした。
これを読んで「ああ、こういうお話を書く人だったんだー」と思われてしまうと ちょっと悲しいなー、と思ったんですが、文章の密度やレベルはこの作家のいつもの感じと変わりませんでしたので、ちょっとお試し、にはいいかも。

Rachel Lee "Drusilla's Dream"
現代物ロマンス「職場のちょっと気になる謎の彼と実は両想い」パターン。これはとっても読みやすい、でも、真性のファンタジーファンにはちょっと何かしら? なところもあるライトなファンタジーでした。とってもきちんとロマンス小説だったので、すごいなあ、と思っていたら、この作家さんはもともとロマンス作家なのでした。

Catherine Asaso "Moonglow"
ええとこれは、やっぱりヒストリカル・ロマンス「選ばれた者同士として無理矢理結婚させられる」パターン、かな。この3作の中では一番徹底した異世界ファンタジーです。文章も流麗。イメージもとてもきれいでした。
この方はもともととってもロマンスなSFを書いている作家さんで、(『スコーリア戦史』シリーズ 早川文庫SF)私はそちらも割と好きなので、楽しく読みました。文章も特に難しいところはなかったので、そのうちSFの未邦訳分も読んでみようかな、と思ってます。


最後に、共作のSF。

「旅立つ船」
マキャフリー&ラッキー著 赤尾秀子訳
創元推理文庫 1994
"The Ship Who Searched"

宇宙飛行士を目指す7歳の好奇心旺盛な少女ティアは、ある日重病にかかり、全身が麻痺してしまう。それでもなんとか生きよう、頑張ろうとする彼女の姿は周囲の人々の共感を誘い、やがて、一度は断られた「頭脳船」養成学校への入学の許可が下りた。彼女は、宇宙船に生まれ変わり、宇宙を駆け回ることになったのだ。そんな彼女の相棒になるのは・・・・。

マキャフリーの傑作「歌う船」シリーズを、ラッキーが共作した作品。ファンタジーではなくて、SFです。最初に読んだときには、これがラッキーの作品だと気づかないで読んでいたんですが、後で思い直してみるといかにもな作品(笑)。頑張る女の子を書かせたら、この人の右に出る人はいないんじゃないかなー、と思っています。ティアはとってもがんばりやさんで、ユーモアもたっぷり。笑いあり涙ありの素敵な作品です。



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