ファンタジー・海外

J. Gregory Keyes
J・グレゴリイ・キイズ

凝った構成の緻密な作品を書く作家さんです。
シリーズごとに違ったタイプのファンタジーを書いているみたいで、傾向は色々。

「水の都の王女」
岩原明子訳 早川文庫FT 1997
"The Waterborn" 1996
「神住む森の勇者」
岩原明子訳 早川文庫FT 1998
"The Blackgod" 1997

正統派のおすすめファンタジーです。神々が人々と共にあり、善意も悪意も強大な力も共にある世界の物語。「大河の神」の力を継ぐ南方の王家の姫ヘジと、彼女の呼び声に引き寄せられた北方の地の族長の息子ペルカルの成長物語でもあり、神々の戦いと再生の物語でもあります。物語全体に不思議な静謐さが漂っていて、私はそれがとても好きでした。

ジャンルからいくと「異世界もの」になるのでしょうか。全く違う世界と、そこに住む人々の物語。でも、世界がとてもよくできていて、すうっと入っていくことができます。悩み傷つき、それでも頑張って進み続ける主人公たちも魅力的。ただ「面白い」というだけではない物語の深みを味わうことができる本でした。

続きがあるのかなー、と思っていたんですが、その後音沙汰がなくて、やっぱり出なかったらしいです。


「錬金術師の魔砲」
金子司訳 早川文庫FT 2002
"Newton's Canon" 1998

前作とはがらりと変わって、こちらは架空の18世紀が舞台の錬金術ファンタジー。舞台はルイ14世(太陽王)の君臨するヴェルサイユの宮廷と、若きベンジャミン・フランクリンの暮らす開拓時代のアメリカ植民地。でも、ルイ14世は本来は死すべき場面で「ペルシャの秘薬」によってよみがえったという、史実を越えた存在です。そして、実際に人手で(船で)運ぶ以外に通信手段のなかったはずのこの時代のアメリカとヨーロッパは、エーテルスクライバーという錬金術で造り出された通信相手限定のファクシミリのようなもので結ばれています。そう、この世界では、錬金術が科学の一分野として研究され、学問の主流となって実際に使用されているのです。

という感じで、物語は蘇生の後、狂気に陥っているかに見えるルイ14世に見初められ、許婚者として宮廷にあがることになった隠れ科学マニアのうら若き女性アドリエンヌと、エーテルスクライバーを使ってヨーロッパからのニュースを手に入れて新聞を発行する新聞社の徒弟であるベンジャミン・フランクリン少年の二人の視点で進行します。華麗な宮廷陰謀劇と、錬金術の造り出す究極の兵器の謎、そして、エーテルスクライバーを改造する新たな方法を見いだしたベンジャミンを襲う正体不明の敵。複雑に絡み合う様々な謎が解かれるとき、そこに現れるのは……?

表紙には何も書かれていませんが、今回のこの本は、4部作となるシリーズの第1部です。架空の歴史はまだ始まったばかり。なかなかすごいところで話が終わっています。ちゃんと訳されてくれるといいんですけど、どうかなー。前のシリーズの大ファンで、それを期待して読んだ方々には結構きついんじゃないかなと思うんですよね。あまりに違うから。ということで、今更ですが、全然別物と思って新たな気持ちでお読みください(笑)。最初のうちはちょっとつらいかもしれませんが、頑張ってお読みください(爆)。なじんでくると面白いですよー。陰謀好きな方やマッドサイエンティスト好きの方にはとってもおすすめです。ちなみに原題は "Newton's Cannon"。この世界のニュートンは、天才錬金術師なんですよね。

で、現在、続きは翻訳刊行されていません。もしかして、出ない? これを原書はかなり厳しそうなので、ちょーっと勘弁して欲しいですね(笑)。ちなみに続きはこの3作。
"A Calculus of Angels"
"Empire of Unreason"
"The Shadows of God"
シリーズタイトルは"The Age of Unreason"。わかるような、わからないような。


"The Brair King" 2003

グレゴリー・キイズの新シリーズ"The Kingdoms of Thorn and Bone"第1巻です。翻訳されることがあるのかどうかは不明。こちらは異世界率の高い本格ファンタジーですね。1巻ごとに完結するタイプのシリーズかと思っていたら、完全に続きものでした(笑)。

「クロセニーは陥落してはなりません。そして、”彼”が訪れるとき、そこには女王がいなければならないのです」

昔語りに語られ、今も人々に恐れられる「茨の王」。森の奥深くに眠る彼が目覚めるとき、世界は滅びを迎えるという。
かつて、その地は残忍な種族の支配を受け、その地に住まう人々は奴隷として生きるか、死してその隷属から逃れるかしかなかった。彼らを解放したのは1人の女王。彼女は、魔法の力を持った偉大な存在だった。
そして今、その子孫たる王家の一族に滅びの影がさしはじめ、世界には異形の生き物たちが現れ始めていた。

主人公は1人ではなくて、2人ですらなくて、ええと、視点が据えられる人物だけで8人? 歴史小説風の群像劇です。中でも一番主役に近いのは、王家のお転婆姫アン、王の森の番人の1人アスパー、外国から来た修道士見習いの青年ステファン、それから、女王の護衛となる地方出身の清廉な騎士ニール。彼らそれぞれの旅と運命が次々に語られ、やがてひとつに収束していく展開は、見事なのだけれど読むには大変。政治向きの陰謀の話も盛りだくさんで、読み応えがありました。

文章は、結構きれい。華美ではなく、どちらかというと実直な感じですが、森の描写その他、空気が伝わってくるような緻密さは相変わらず。単語的には、それほど難しいものではありません。人物の描き方が深くて、どんどん視点が変わって、1人あたりの描写はそんなに多くないはずなのに、感情がものすごく伝わってくる感じでした。やっぱり力のある作家さんなんだなあと思います。

内容的にはファンタジー上級者向けかも(笑)。もしかすると、ヨーロッパ史と宗教史に詳しいともっと楽しめるのではないかと思ったのですが、未確認です。多分、前作と同じく、この世界をアレンジして作られた物語なのだと思うんですよね。でも、まだまだわかりません。お楽しみはこれから。
最後の方、ものすごい展開で、うわー、と思いながら読みました。次の巻が楽しみです。
2004.09.30

ええと、第2巻はまだハードカバーで出たばかり。PB待ちします、もちろん。

"The Charnel Prince" 2004



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