ファンタジー・海外

Nina Kiriki Hoffman
ニーナ・キリキ・ホフマン

あんまり人気は出ていませんが、近年の私のお気に入りの1人。日常的な世界に生きる、ちょっと違った力を持つ人々のお話が多いみたいです。

「マットの魔法の腕輪」
ニーナ・キリキ・ホフマン著 田村美佐子訳
創元推理文庫 2002
"Red Heart of Memories" 1999

ある時から道具や機械と話ができるようになり、ひとつのところにとどまることができずに旅を続けるマット(マチルダ。若い女性です)は、クリスマスイブの日、彼女はとある墓地の塀のところで、塀と同化したまま半年を過ごしていたという不思議な青年と出会う。彼の名はエドマンド。精霊と会話することのできる魔法使い。彼女との出会いは精霊の導きだと語る彼とともに、マットは彼の過去を探す旅に出る………。

ロード・ノベル、と紹介されてますが、実際にはあんまりそういう印象はなかったです。旅全体というよりは、ポイントポイントでの物語が主体。やさしくてあたたかな印象の、現実世界のファンタジーです。この本は私としては久々のヒットでした。こういう話、結構好きです。異世界ものも好きですけど(笑)。

主人公のマットは昔つらい経験をして、そのために一時「荒れて」いて、今はなんとかその記憶にうちかって生きています。エドマンドも恐ろしい経験をして、そのために己の記憶と感情を封じてしまい、色々なことが思い出せなくなっていたのです。物語はエドマンドの過去への旅と、彼をめぐる人々への旅、そしてマット自身の過去を見つめ直す旅でもありました。大人になるために、何かを手に入れるために、何かを選んで何かを切り捨てたことのある人、選ばなかったために心の奥に封印したもののある人にお勧めの1冊。あなたは、魔法の腕輪に何を願いますか?


"Past the Size of Dreaming" 2001

「マット」の直接の続編。どうせこっちは翻訳されないかなー、と思って読みました。前作で名前だけ出てきた、エドのかつての友人達を探す旅と、「家」のお話。最後には、驚くべき出来事が。

この作品は、何て言うのかな、文章がいい感じでした。ジュブナイル向けだと思うのですが、読みやすくて、生き生きしていて、カラフル。庭先でやる「お徳用花火セット」みたいな感じで素敵です。


"A Fistful of Sky" 2003

こちらは単独の作品。
この本、恩田陸の「光の帝国」に、最初のあたりの雰囲気がとても似ています。設定も、導入部も。その後の展開や人物造形はやっぱりちょっと違ってきますけれど、それでも近しい感じ。この本も「ピープル・シリーズ」(ゼナ・ヘンダースン)の系列なのかもしれません。前作もそういえばそういうところありました。

成長期に高熱を出して寝込み、その後、何らかの魔法の力を身につけるという、魔法使い一族に生まれた少女ジプサム。しかし、兄弟姉妹がすべて魔法使いに変化した後も、彼女の魔法が目覚めることはなかった。普通の人間である父の血を強く引いてしまったためなのだと誰もが思い、自分でも諦めていた彼女だったが、21歳になったある日、インフルエンザで寝込んでしまい、その後、それがインフルエンザではなかったことを知る。遅すぎる魔力の目覚め。だがそれは、忌むべき力を意味するものだった………。

なんだかこれだけだとホラーな感じ(?)ですが、別にホラーではないですし、爆笑シーンも盛りだくさんの楽しいお話です。でもって、これに出てくる食べ物がそれはもう美味しそうでー(笑)。ヒロインが魔法で作るブラウニーの壁とか、うっとり。ラストがちょっと弱いかなって気がしますが、これは途中を楽しむ物語なので、私はとても楽しく読みました。異世界ファンタジーはちょっと、という方にも楽しくお読みいただけるのでは? 一応一般向けに分類されていますが、実際にはジュブナイル向けの成長小説です。

"A Stir of Bones" 2003

私立の学校に通う、絵に描いたような美少女スーザンの毎日は、決して人には言えない恐怖に満たされていた。彼女を「理想の娘」にしたがる父親が、彼女をがんじがらめにしていたのだ。乳母がやめさせられた夜、泣き続けた彼女に、父親は翌朝、ベッドに横たわる母の姿を見せて言った。「お前が泣くとお母さんがどうなるか見てごらん」。その時の彼女にはまだよくわかっていなかったが、母の手足にはできたばかりのひどい痣がいくつも浮かび、母は言葉もなく苦痛に耐えていた……。
恐怖に心を縛られたまま、目立たぬ優等生として生きてきたスーザン。けれどある日、彼女は図書館で、唯1人の友人フリオとその仲間達と出会い、一緒に幽霊屋敷に忍び込むことになる。そこには、ずっと昔に死んだ少年の幽霊が住んでいた。

「マットの魔法の腕輪」の前段物語です。エドマンド、フリオ、スーザン、ディアドリが初めて「屋敷」を訪れた頃のお話。完全にスーザンが主人公で、すべて彼女の視点から描かれる、ネイサンとの出会いの物語。幽霊屋敷と幽霊のお話なのですが、それよりも家庭内暴力のお話、という印象が強いですね。子どもの頃のスーザン、本当に痛々しいです。この先の彼女の運命を知っているだけに、ますます痛い気がするのでしょう。

幽霊屋敷は、変わらずやさしいです。屋敷と、ネイサンの存在は、やっぱり穏やかでやわらかい。それで、つい読んでしまいます(笑)。魂の宿った家、素敵ですよね。

この本、前の本達にもまして、文章は簡単です。スーザンは14歳ですし、その世代に向けたものなのでしょう。その分、ちょっと、情景描写は緻密さを欠いてるかもしれません。でもやっぱり、軽快で読みやすい文章だと思いました。
2005.07.10



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