ファンタジー・海外

Sarah Ash
サラ・アッシュ

まだ日本では翻訳のない作家さんです。
繊細な、映像的な描写が特徴。今後の活躍が期待されます。

"Load of Snow and Shadows"  2003

光あふれる南方の海辺の地Smarnaに育った青年画家Gavrilは、その地に滞在中の大国Muscobarの姫君Astasiaの肖像画を描くために雇われ、彼女と恋に落ちる。しかし、その肖像画は彼女の未来の政略結婚の相手へと贈られる絵であり、彼女とともにいるところを発見された彼はそのまま宮殿から放り出された。身分違いの恋と、もちろん彼も知っていた。だが、その夜、恐ろしい夢が彼を襲い、やがて、彼を捜して野蛮な戦士達が彼の家を訪れた。彼は実はMuscobarの北にある国Azhkendirの唯1人の世継ぎであり、彼の父が亡くなったため、跡取りとして迎えられるというのだ。これで彼女と対等な地位になることができるのか? しかし、これまでずっと父のことを隠し続けてきた彼の母は苦悩に満ちた表情で彼に告げた。Azhkendirの領主Drakhaonとなること、それは、人としての自分を失っていくことなのだと。

"The Tears of Artamon"の第1巻。ロシア風の異世界を舞台に展開される、時代絵巻ファンタジーです。火薬が開発され、貴族制に対して民衆が革命を起こし始めたくらいの時代が舞台。物語は、この後、自らの意志とは関わりなく、Azhkendir に連れてこられたGavril の苦悩を中心に、Azhkendirの過去やDrakhaonの謎、復讐を求めて悪霊と化した彼の父の存在、Azhkendirを含むRossiya全土の武力統一を狙う隣国Tielenの陰謀などを盛り込んでめまぐるしく展開します。ジェットコースターでもないのだけれど、ちょっと映画的な、映像的な感じの作品でした。

ちょっと内容詰め込みすぎ? っていう感じもするんですよねー。ドラゴンの血筋に、宮廷陰謀に、革命に、死霊使い。人為的狼男に、錬金術的(魔術的)攻撃に、血清に、呪いによる永遠の冬。恋に、復讐に、友情に、死。絵画に、音楽。もうちょっと絞ってもいいんじゃないかなー、と思うくらい様々な要素が盛り込まれていて、息つく間もないほどです(笑)。でも、それでもちゃんとお話としてまとまっているからすごいですね。それに、なんていうか、全体として暗いお話だし、かなり残酷なシーンとかもあるのに、不思議と受ける印象が柔らかい。すごく文章がきれいとか、そういうことはないのだけれど、私にはパステル調の印象があるんです。透き通る綺麗さではなくて、ちょっと光が透けているような、やわらかいイメージ。主な舞台は雪に閉ざされた北の国で、そこでは色彩も限られているって、文中で何度となく語られるんですけれど、それでもずっと、そういう感じで読んでいました。文章にすごく惹かれるというのでもないけれど、ついついぼーっと読み進んでしまう、そういうやさしい力を持った作品でした。

というわけで、私としては割とポイント高いです。面白く読みました。暗いのがちょっと玉に瑕ですが(笑)。

この作品、「ドラクエ8」と並行して読んでました。多くの方はご存じだと思いますが、ドラクエも、「ドラゴンの血筋」が出てくるお話です。この本もそういう内容だとは知らずに読み始めたのですが、読んでみたらそうだったので、結構色々考えさせられました。
ドラクエの竜(すくなくとも竜王)は、姿は西洋のドラゴンに近いけれど、思想的には日本の「龍神様」に近いですよね。翻訳物のファンタジーで育った私にも、考え方としてはその方が精神的に合っています。でもこの本のドラゴンは西洋のドラゴン。狂気と恐怖と圧倒的な力を持つ、人とは根本的に相容れない存在として描かれます。最後の方、ちょっと違ってきてましたが、もともと「悪」の存在としての竜があって、そこからお話が始まっていることは事実。ああ、そうなんだなーって思いました。ドラクエやってる西洋人の方々は、あの竜をどう思っているんでしょうね。
2004.12.22



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