最近読んだ本

マーセデス・ラッキー
「新訳 女王の矢:ヴァルデマールの使者」
「新訳 女王の矢:ヴァルデマールの使者」
マーセデス・ラッキー著 澤田澄江訳 中央公論新社 2007
Mercedes Lackey, "Arrows of the queen" 1987

ヴァルデマール王国の辺境に住む砦族の少女タリアは、本好きで内気な、一族の中では変わり者。女性を低い地位にある者と見て、自由に生きることを許さない一族にあって、彼女はいつも外の世界にあこがれていた。けれど、13歳の誕生日に、彼女は嫁入りを告げられる。とてもそんなことには耐えられない。タリアは偶然出会った白馬の背に乗って、都へ向かうが・・・。

20年以上前にこの巻だけが翻訳され、その後絶版になっていたヴァルデマール年代記の始まりの1冊が、とうとう新訳で再刊されました。びっくりです(笑)。この本の続きを読むためだけに洋書読みになった私。世の中何が幸いするかわからないものですが、でもやっぱり、また日本語になってくれるのは嬉しいですねー。読むの楽だから(爆)。

タリアを乗せた白馬は、偶然訪れたのではなく、彼女を探しに来た「共に歩むもの(Companion)」。かつて、王国の創始者によって、神の力を借りて生み出された彼らは、すべて純白の馬体とサファイアのような青い目を持つ奇跡の生き物で、その乗り手「使者(Herald)」とともにヴァルデマール王国を支える存在です。
彼らの一頭に選ばれ、「学院」に学ぶことになったタリアを待っていたのは、周囲の多大なる期待と、彼女を危険視する者達の陰謀、そして、友人達との出会いでした。

常に自分を目立たせないように、しかられないようにと小さくなって生きてきたタリアが、新しい生活の中でだんだんに自信と余裕を身につけていく過程がとても感動的な物語。この本を最初に読んだ頃、私はまだまだ子供(?)で、その分、共感するところが多かったのだなあと、今回読み返していて思いました。でも、やっぱり今でも大好きなお話です。ヒロインのタリアはもちろん、周囲を固める大人らしい大人達がいいんですよね。信頼しあい、支え合って、国を守っていくちゃんとした大人達。彼らにももちろん若い頃はあって、その本も出ているのですが(笑)。

というわけで、ずっとこの本が手に入らなかった方も、ぜひぜひお楽しみ下さい。
翻訳は、創元の既訳のシリーズに準じたとのことで、訳語は社会思想社版とはずいぶん違います。それはそれで、統一がとれていいと思うのですが、ひとつだけ何となく好きになれなかったのは、ジェイダスの竪琴が「愛しのきみ」と訳されていたことです(苦)。これ、"My Lady"なんですよー。まあ、確かにそう訳せるんですが、イメージが違う……。細かいことなんですけどね。

この3部作、続けて翻訳予定だそうです。嬉しいです。
これが売れたら、こっちのラインだったら次はヴァニエル君(笑)が?
ヴァニエル君が訳される時が……?(爆)。
そしたらとっても楽しみですね。
2007.09.23

堀江敏幸
「雪沼とその周辺」
「雪沼とその周辺」
堀江敏幸著 新潮文庫 2007(単行本は新潮社 2003)

さびれつつある静かな山間の地、雪沼。リゾート客が大勢訪れるような大規模なものはないけれど、心ゆくまで滑れることで通の人々には人気のあった小さなスキー場や、ハーブを使った料理で有名な小さなレストランがあり、そこには昔ながらのつつましやかな生活と、そこに生きる人々のそれぞれの人生があった。あくまでもピンが倒れるときの音にこだわって、古い機械を使ったままの古いボウリング場。来た客の好みの音楽をさりげなく流して売り上げを伸ばしたレコード屋。一度納品した機械にはとにかく自分で責任を持ち、いつでもメンテナンスに応じる技術者。自らの生き方に、職業にこだわりを持って生きてきた人々が、老いを迎えて振り返る過去にもまた、いくつもの物語があった……。

昨年文庫化された「いつか王子駅で」を読んで、その文章にとても惹かれた作家、堀江敏幸の連作短編集、文庫化されたので読みました。読み始めたのはしばらく前だったんですが、通勤に持ち歩く都合で最後だけ読んでなくて(苦)。やっと読みましたのでご紹介です。もっとも、これはやっぱり、秋冬に読みたい本ですね。だから、タイミング的には今の方がいいのかも(笑)。秋の夜長か、冬の冴え冴えした空気の中でお読み下さい。

さて、この本は、雪沼の周辺地域に暮らす人々の、ほんの少しだけ特別な瞬間を切り取って描いた、連作短編集です。何となくご近所だけれど、それぞれに干渉しあう訳でもない程度の関わりの人々。でも、全体としては、一つの時代の、ひとつの空気を共有している感じに仕上がっていて、しみじみとした味わいがあります。文章がやっぱりとても深くて、素敵ですねー。静かで、淡々として、読んでいて心が鎮まる感じがします。内容的には、ちょっと私には早すぎるかな(笑)。さすがにまだこの本の主人公達の心の境地には達していないなあと(苦)。

自らの人生に区切りをつけようとするとき、自分でそうしないでいても、抗いがたい外からの力によって何らかの区切りをつけられてしまうその瞬間、人は何を思い、何を選ぶのでしょう?

いくつかの短編で構成されているこの本、私にとって一番印象深かったのはボウリング場のお話でした。自分では全然やらないし、興味もないのに不思議なことですね。
2007.09.20

上橋菜穂子
「狐笛のかなた」
「狐笛のかなた」
上橋菜穂子著 理論社 2003

夜名の里のはずれに祖母と2人で暮らす少女、小夜。彼女は早くに母を亡くし、とりあげ女である祖母にその技を学びながら、村人達とは少しだけ距離を置いた生活を送っていた。そんな暮らしは寂しいだろうと友人達は言うが、彼女には実は人の心の声を聞き取る「聞き耳」の才があり、人々の中で暮らしていくのはつらいことだったのだ。
ある年の秋、彼女は夕暮れの野原で傷ついた子狐を助けた。そして、たまたまその彼女を助けてくれた森陰屋敷の少年とも仲良くなった。それが、すべての物語の始まりだった。
成長した彼女は、母の縁の人々と出会い、己の中に流れる血の秘密を知ることになる。そして……。

「守り人」シリーズでおなじみ、上橋菜穂子の書き下ろし作品です。出版されたのはもうずいぶん前ですねー。とっくに文庫化もされています。でも、読んだのは単行本。実は人に借りたまま、読む機会を逸してずーっと手元にありました。今回、次の本がその人から回ってきたため、慌てて読むハメに(苦)。あ、大丈夫です。彼女の方が、より長く沢山、私の本を借りっぱなしにしています(笑)。

というわけで、読みました。昔の日本に似たファンタジー世界が舞台の、切ない物語です。私は最初にこの本のタイトルを目にしたときからずっと「狐笛」の「狐」はきつね、ではなく「孤独」の「孤」だと思っていました。そして、なんて寂しいタイトルだろうと思っていたんです(苦)。でも、ある意味、それでもいいのかもしれないな、と思えるような物語でもありました。

土地を巡る領主同士の確執に巻き込まれ、利用される霊孤の使い魔たち。何とか国を守ろうとして命を落とした母。呪いにより心を失ったかつての友達。成長した小夜が向かい合うのは、自分の力だけではどうにもならない何か大きなものであり、自分自身でもあります。けれど、彼女は言うのです。

”……逃げても。わたし……生きている気もちになれないと思う。”

大切な誰かを置いて、誰かを残して自分だけ逃げたら、結局は自分自身をも失ってしまうことになる。そして、彼女は残って自分なりに戦うことを選びます。

その彼女に寄せる霊孤、野火の想いや、彼らをとりまく様々な人々の思いがとても切ないお話でした。
和風のファンタジー、いつ読んでもちょっと懐かしくて愛おしいですね。
2007.09.19

梨木香歩
「村田エフェンディ滞土録」
「村田エフェンディ滞土録」
梨木香歩著 角川文庫 2007(単行本は角川書店 2004)

明治時代、まだ世界に不思議が生き残っていた頃、土耳古に国費留学した「私」こと村田は、そこで様々な人や物、そして古くからの神々に出会う。
イギリス人の老婦人が営む下宿には、他国からの学者仲間が住み、言語学者に飼われていたらしいふてぶてしい鸚鵡が拾われてきて、まるでその場の状況を読んだかのように鋭い言葉を放つ。そして、夜、彼の部屋の壁には遠い時代の神々の姿が浮かび上がる。
様々な文物が行き来し、強い香料の香りと人々の生命力に満ちた土耳古の国。そこで彼が眼にする物は……?

「家守綺譚」で主人公の友人として登場していた、トルコに行っていた怪しい人物(?)、村田が主人公のお話です。春にこちらも文庫化されていたようで……すみません、正気を失ってましたので、気がついたの最近です(苦)。ほとんど同時進行で書かれていたのでしょうか? 単行本も同じ頃に出ていたみたいですね。話のトーンもよく似ています。ただ、家守が昔の日本が舞台であるのに対して、こちらはトルコ。多分、今よりも更に異国情緒たっぷりの、少し昔のトルコが舞台です。

外国に行くということ自体が、一般の人には遠い夢物語だった時代、まだ、外国に出て行く日本人の背骨がぴーんと伸びていた時代。トルコで村田をとりまく人々も、皆、強い意志と気概を持っていて、そこがえもいわれずいいですね。あの時代の文学の翻訳作品で育った私には、ある意味懐かしい雰囲気でもあります。それぞれがそれぞれに強い心を持ち、深く深く物事を考えていく感じ。それは、今の時代では失われてしまったものであるような気がします。

物語自体は、淡々と日常のありふれた出来事とそうでない出来事を語るだけの、静かなトーンです。無駄に感情的になることのない抑えめな文章で、それは家守とも共通していますね。読みやすいし、負担も少ない。ただ、外国での生活を描いた物である分、やっぱりもっと雑多な印象があります。良くも悪しくも、そこは異国で、それはもう、絶対の違いがあるのです。

トルコ、一度は行ってみたいと思っているのですが、まだかなえていません。日程的にも、体力的にも、仕事を休んで行くにはつらいなあと思ってしまう。
でも、こうやって本を読んでいると、やっぱり行ってみたいですね。物語の中の昔のトルコはもうどこにもないのでしょうけれど、それでも。

”私は人間だ。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない。”

一神教を奉じる西洋人と、多神教を奉じる東洋人。
物語の中であるが故にその違いがいっそう際だって、なんだか色々考えさせられた本でした。
私は多分、自分が根っこのところから多神教であることについては、日本人に生まれたことを感謝しています。西洋に生まれたら、それはそれで満足して生きていただろうなとも思いますが(笑)。

ところで、文庫のカバーの内容説明、書きすぎ……。
2007.09.17

ドロシー・ギルマン
「1人で生きる勇気」
「1人で生きる勇気」
ドロシー・ギルマン著 柳沢由美子訳 集英社文庫 2007
Dorothy Gilman Butters, "A new kind of country" 1978

離婚後、2人の子供を育てながら都会に暮らしてきた私は、子供達の独立後、ふとしたきっかけから海沿いの田舎の村に家を買い、自給自足に近い生活を始めた。そこにあったのは深く静かな孤独の日々、そしてそれとは対照的な、近くの他人達との親密な関わりの日々だった……。

「おばちゃまスパイ」シリーズでおなじみ、ドロシー・ギルマンの自伝エッセイです。ハードカバーで出た頃からおすすめいただいていたんですが、文庫になったのでやっと読みました(汗)。とてもギルマンらしいといえばギルマンらしい、人間への共感と、1人で生きるということの大切さを語るさわやかな自伝。読むと、何となく勇気がわいてきます。

1人でいるということ、1人でいることを選ぶということは一体どういうことなのか。 
自分と向き合うということ、自分を見つめ直すということはどういうことなのか。

一生のうちで一度もそういうことを考えない人も、きっといるでしょう。
考えても、1人でいたいとは決して思わない人も。そして、1人ではいられない人も。 

世の中、そういう人の方が多いような気もちょっとしています。

でも、私は明らかにギルマンと同じ、1人でいることで自分を保っていられる側の人間。だから、この本はとても心地よく、楽しく読むことができました。私には決してあんな生活はできないでしょうけれど、1人という絶対の孤独から別の自分を見つけ出す作業自体は、都会でもできますよね。都会の孤独は明らかにもっと無機的で、病的ですが。

美しく荒々しいカナダ北岸の自然と、そこでの素朴な生活の描写もとても美しく、印象的な本でした。
どこにいても、何をしていても、ちゃんと自分を持って、顔を上げて生きていたいですね。 
2007.06.14

ロイス・マクマスター・ビショルド
「チャリオンの影」
「チャリオンの影」
ロイス・マクマスター・ビショルド著 創元推理文庫 2007
Lois McMaster Bujold, "The Curse of Chalion" 1991

チャリオン王家には、その血筋にかけられた呪いが存在する。
それは、かつて大いなる運命を果たすはずだった人物に由来する、悪意に満ちた呪い。その呪い故に、チャリオン王家の王達やその後継者達は皆、人格を、運命を歪められ、苦しみのうちに世を去っていくのだ。
他国での奴隷生活から奇跡的に解放され、かつての主君の妃を頼って藩城を訪れたカザリスは、藩妃の依頼により、王家の血を継ぐ姉弟に仕えることになる。それは、新たなる運命の始まり、呪いとの戦いの幕開けであった……。

なんだか、久しぶりに日本語で、どーんというファンタジーを読みました(笑)。あちこちのサイトさんでも、日常の友人からもおすすめを受けていた本です。いやもう、最近読むのが遅い遅い……(涙)。
というわけで、創元文庫からの新シリーズです。表紙もなかなかうるわしくていいですねー。ロマンスの香りもある波瀾万丈の物語。読み応えがあって、面白い作品でした。世界観はそんなに凝ってはいない気もしますが、それはこれからのお楽しみなのかもしれません。

で、この本の個人的おすすめポイントは、「主人公が若くない」ということでしょう(爆)。 

年寄りという訳ではないのですが、戦場で大変な苦労をして、身体も弱くなっていて、だからこそ深謀遠慮の人にならなければならなかったという、自制心と知性の人。いやあ、読みやすかったです(笑)。血気にはやる若者とか、考えなしのトラブルメーカーとか、そういうのもたまにはいいですが、やはり読むと疲れますからねえ……。

ということで、とても楽しく読みました。あと、ウメガトが好きですねー。彼にはもっと活躍していただきたかったです。お姫様もかっこいい。素敵です(笑)。やはり、女性が描く女性の方が、そういう意味ではしっくりきます。

神々が実在し、神々の与える運命が世界を変えてゆく世界の物語。
今後の展開も楽しみですね。 
2007.06.12



トップへ
戻る




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送